はじめに
欧州エコデザイン規則(ESPR)は、EU市場でビジネスを行う企業にとって、ただの対応すべき規制ではなく様々のビジネス上のチャンスやリスクがあります。
これは、EUが掲げる壮大な環境戦略「欧州グリーンディール」の中核をなすものであり、製品の設計、生産、消費、そして廃棄に至るまでのバリューチェーン全体に根本的な変革を迫るものです。
なぜ今、ESPRがこれほどまでに重要視され、企業がその動向を注視し、戦略的に対応する必要があるのでしょうか。
本記事では、ESPRが誕生した背景にあるEUの環境政策、企業活動に与える具体的な影響、そして日本企業が直面する課題と機会について深掘りします。
欧州グリーンディールと循環型経済
ESPRの重要性を理解するためには、まずその上位概念である「欧州グリーンディール」と「循環型経済行動計画」を把握することが不可欠です。
・欧州グリーンディール:
2019年に発表されたEUの最上位政策フレームワークであり、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすることを目指す成長戦略です。
気候変動対策、環境負荷低減、経済競争力の強化を三本柱としています。
・サーキュラーエコノミー行動計画(CEAP):
欧州グリーンディールの中核的施策の一つであり、2020年に発表されました。
製品寿命の延長、資源回収・再利用の促進を通じて、EUにおける循環型で持続可能な経済を推進するためのロードマップを示しています。
ESPRは、このCEAPを具体的な製品規制として制度化したものであり、製品設計の段階から持続可能性を組み込むことを目的としています。
このように、ESPRはEUの環境・経済政策全体の中で非常に重要な位置を占めており、EUが目指す「グリーントランジション(環境移行)」を実現するための基盤となる規則と言えます。
企業への具体的な影響
ESPRは、その広範な対象範囲と厳格な要件により、EU市場で活動する企業に多岐にわたる影響を及ぼします。
1. 対象製品の広範な拡大と委任法
従来のエネルギー関連製品だけでなく、繊維、家具、鉄鋼、アルミニウム、化学製品、ICT機器など、ほぼすべての物理的製品が対象となります(食品、飼料、医薬品などを除く)。
具体的なエコデザイン要件は、今後、欧州委員会が製品グループごとに制定する「委任法(Delegated Act)」によって規定されます。
最初の作業計画は2025年4月19日までに採択され、繊維・アパレル、家具、タイヤ、マットレス、鉄鋼、アルミニウムなどが優先製品カテゴリーとして挙げられています。
企業は、自社製品がどの委任法の対象となるかを常にモニタリングし、将来的な要件変更に備える必要があります。
2. サプライチェーン全体での責任と情報開示
ESPRは、製品のライフサイクル全体にわたる持続可能性を追求するため、製造事業者だけでなく、部品供給者、販売者、リサイクル業者など、サプライチェーン全体の関係者に責任が及ぶ可能性が高まります。
デジタル製品パスポート(DPP)の導入は、製品固有のQRコードなどを通じて、原材料調達から製造、流通、廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル情報をデジタルで記録・提供することを義務付けます。
これにより、サプライチェーンの透明性が飛躍的に向上し、企業には膨大なデータの収集・管理体制の構築が求められます。
3. 売れ残り消費者製品の廃棄禁止
ESPRの特に注目すべき点の一つは、売れ残った未使用の消費者製品の廃棄禁止です。
特に繊維・アパレル業界では、2026年からこの規制が適用される見込みであり、大量生産・大量消費・大量廃棄という従来のビジネスモデルからの脱却が強く求められます。
小規模企業は適用外ですが、中規模企業は2040年以降に適用される予定です。この規制は、将来的には他の製品群にも拡大する可能性があり、在庫管理や需要予測の最適化など、ビジネスプロセスの根本的な見直しが必要となります。
4. 日本企業への影響
EU市場に製品を輸出する日本企業は、ESPRの要件に直接的に準拠する必要があります。
EUの規制はグローバルスタンダードとなる傾向があるため、EU市場以外でのビジネスにおいても、ESPRが事実上の標準となる可能性があります。
製品設計の抜本的見直し、サプライチェーンにおける環境負荷低減の強化、データ管理体制の構築、そしてデジタル製品パスポートへの対応など、多大な投資とビジネスモデルの変革が求められます。
まとめ
ESPRは、EUの欧州グリーンディールと循環型経済行動計画を具現化する、極めて重要な製品規制です。
その広範な対象範囲、強化された法的拘束力、そしてデジタル製品パスポートや売れ残り製品の廃棄禁止といった具体的な要件は、EU市場でビジネスを行う企業に、製品設計からサプライチェーン管理、ビジネスモデルに至るまで、抜本的な変革を迫ります。
日本企業もこの国際的な潮流から逃れることはできず、持続可能性へのコミットメントとそれを実現する技術力が、これからの競争優位性を左右する重要な要素となるでしょう。
今回はESPRの重要性とその背景について解説しました。次回はESPRが目指す「持続可能な製品」について詳しく説明します。
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