はじめに
欧州連合(EU)が導入した「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」と、その中核をなす「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」は、EU市場でビジネスを展開する企業にとって、単なる規制強化以上の意味を持ちます。
5-3:CFP算定がDPPの信頼性を高める理由
これは、製品の開発、調達、製造、販売といった従来の製品戦略のあらゆる側面に根本的な変革を迫るものです。
もはや、コスト効率や機能性だけを追求する時代は終わりを告げ、持続可能性を核とした新たな製品戦略の構築が、企業の存続と成長にとって不可欠となっています。
本記事では、ESPRとDPPの導入が企業にどのような変革を迫り、持続可能性を核とした新たな製品戦略がなぜ今必要なのかを、ビジネスパーソン向けに分かりやすく解説します。
ESPRとDPPが迫る変革の波
ESPRとDPPは、企業の製品戦略に対して、これまでの常識を覆すような大きな変革を求めています。
1. 広範な対象範囲と厳格なエコデザイン要件
ESPRは、従来のエネルギー関連製品に限定されていたエコデザイン指令から対象範囲を大幅に拡大し、食品や医薬品など一部の例外を除くほぼすべての物理的製品に適用されます。これには、繊維、家具、鉄鋼、アルミニウム、ICT機器などが含まれます。
製品の耐久性、修理可能性、リサイクル性、再生材含有量、有害物質の有無、そしてカーボンフットプリント(CFP)など、製品のライフサイクル全体にわたる多岐にわたるエコデザイン要件が課されます。これらの要件は、今後、製品グループごとに委任法によって詳細が規定されます。
2. DPPによるサプライチェーンの透明化
DPPは、製品に付与されたデジタル識別子を通じて、原材料の調達から製造、流通、使用、廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル情報をデジタル形式で記録・管理し、サプライチェーン全体で共有することを義務付けます。
これにより、これまでブラックボックス化しがちだったサプライチェーンが「見える化」され、企業は自社製品の真の環境的・社会的影響を把握し、改善策を講じる必要に迫られます。
3. 「作って売る」リニアエコノミーからの脱却
ESPRは、特に売れ残り消費者製品の廃棄禁止(繊維・アパレル業界では2026年から適用予定)といった規制を通じて、大量生産・大量消費・大量廃棄という従来の線形経済(リニアエコノミー)モデルからの脱却を強く促しています。
企業は、製品の長寿命化、修理・再利用の促進、そしてリサイクルを前提とした設計へと、ビジネスモデルを根本的に見直す必要があります。
これらの変革は、企業にとって新たなコストや負担となる側面もありますが、同時に持続可能な社会における競争優位性を確立するための重要な機会でもあります。
持続可能性を核とした新たな製品戦略の構築
ESPR時代において企業が競争力を維持し、成長を続けるためには、持続可能性を核とした新たな製品戦略の構築が不可欠です。
1. 製品開発段階からのエコデザイン思考の導入
製品の企画・設計段階から、耐久性、修理可能性、リサイクル性、資源効率、有害物質の低減などを考慮した「エコデザイン」を徹底します。
LCA(ライフサイクルアセスメント)の導入により、製品の環境負荷を定量的に評価し、設計改善に活かします。
モジュール設計の採用や、標準的な工具で分解・交換可能な部品の使用など、製品寿命の延長と資源循環を促進する設計を目指します。
2. サプライチェーン全体での協働と情報共有の強化
DPPへの対応には、原材料供給者からリサイクル業者まで、サプライチェーン全体の関係者との緊密な連携と情報共有が不可欠です。
サプライヤーに対し、DPPで求められる情報の提供を促し、必要に応じてサプライヤーのデジタル化を支援します。
データスペースなどの外部連携基盤を積極的に活用し、サプライチェーン全体でのDPPデータ連携体制を構築します。
3. ビジネスモデルの変革と新たな価値創出
製品の販売だけでなく、修理サービス、部品供給、公式リユース(再販)事業などを新たな収益源として確立し、製品の長寿命化を通じて顧客との関係を深化させます。
製品を「所有」から「利用」へと転換する製品サービス化(PaaS)モデルの導入も検討し、継続的な収益源を確保します。
再生材の活用や、リサイクル性の高い素材開発など、循環型経済に貢献する新たなビジネス機会を創出します。
4. 透明性のある情報開示とブランド価値向上
DPPを通じて、製品のCFP情報やその他の持続可能性情報を透明性高く開示することで、環境意識の高い消費者や投資家からの信頼を獲得し、ブランド価値を向上させます。
企業のサステナビリティへの真摯な取り組みを客観的なデータで示すことで、市場での差別化を図り、競争優位性を確立します。
まとめ
ESPRとDPPの導入は、企業に従来の製品戦略の抜本的な再構築を迫るものです。
持続可能性を核としたエコデザイン思考の導入、サプライチェーン全体での協働と情報共有の強化、そして循環型ビジネスモデルへの変革は、EU市場での市場アクセスを確保し、競争力を維持・向上させる上で不可欠な戦略となります。
この変化の波をコストではなく投資と捉え、積極的に対応することで、企業は持続可能な社会におけるリーダーとしての地位を確立し、未来の市場で勝ち抜くことができるでしょう。
今回はESPR時代における製品戦略の再構築について解説しました。次節では、カーボンフットプリント(CFP)算定がもたらす経営上のメリットについて詳しく見ていきます。
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参考資料
DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?サーキュラーエコノミーを実現させる欧州発の新ルールについて解説!
https://ddx.members.co.jp/contents/circular-economy_20251113
デジタル製品パスポートによるサステナビリティのシステム化
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/11/eu-regulation-dpp.html
CE実現に不可欠な情報連携体制、“使える”デジタル製品パスポートとは?
https://www.mri.co.jp/knowledge/opinion/2025/202512_3.html