はじめに
前回の記事(3.1)では、GHG排出量算定・報告の基本的な5つのステップについて解説しました。
3-1:算定の基本的な5つのステップ
その中でも「活動量のデータ収集」は、算定結果の信頼性を左右する極めて重要なステップです。正確なデータがなければ、どれだけ精緻な算定方法を用いても、信頼できる排出量インベントリを作成することはできません。
本記事では、GHG排出量算定の基礎となるデータ(燃料使用量、電気購入量など)をどのように収集すればよいのか、データの精度を確保するためのポイントと注意点、そしてデータ収集が難しい場合の対処法について詳しく解説します。
GHG排出量算定におけるデータ収集の重要性
GHG排出量は、基本的に「活動量 × 排出原単位」という計算式で算出されます。
このうち「活動量」は、企業活動に伴う具体的なエネルギー消費量や物質の使用量などを指し、算定の出発点となる情報です。
活動量のデータが不正確であれば、その後の排出量算定結果も不正確となり、企業の排出削減目標設定や進捗管理、さらにはステークホルダーへの情報開示の信頼性が損なわれてしまいます。
そのため、データ収集は、GHGプロトコルの基本原則である「正確性」と「完全性」を担保するために最も力を入れるべきプロセスの一つと言えます。
データ収集のポイント
効果的かつ信頼性の高いデータ収集を行うためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
1. 算定境界の明確化
データ収集を開始する前に、前回の記事で解説した「算定対象範囲(組織的境界、事業的境界、時間的境界)」を改めて確認し、明確にしておくことが不可欠です。
組織的境界:どの事業所、どのグループ会社までを対象とするのか。
事業的境界:Scope1、Scope2、Scope3のどのカテゴリまで算定するのか。
時間的境界:どの会計年度のデータを収集するのか。
これらの境界が曖昧だと、必要なデータが漏れたり、不要なデータまで収集してしまったりする可能性があります。
2. 一次データの優先
可能な限り、一次データ(Primary Data)を収集することを最優先とします。一次データとは、企業自身が直接計測・記録したデータや、サプライヤーから直接提供されたデータなど、排出源に最も近い情報源から得られるデータです。
| データ種別 | 概要 | 具体例 |
|---|---|---|
| 一次データ | 排出源に最も近い情報源から直接得られるデータ。データの信頼性が高く、算定結果の精度向上に貢献する。 | 燃料の購入伝票、電気・ガス・水道の検針票や請求書、廃棄物処理業者からの報告書、出張旅費精算データなど。 |
| 二次データ | 一次データが入手できない場合に、代替として使用されるデータ。業界平均値や文献値など。 | 業界平均の排出原単位、類似製品のライフサイクルアセスメント(LCA)データ、統計データなど。 |
一次データは、自社の実態を最も正確に反映するため、算定結果の信頼性を高めます。
3. データの網羅性と一貫性
算定対象範囲内で特定されたすべての排出源について、必要なデータを網羅的に収集することが重要です。また、過去のデータと比較可能にするため、データ収集の方法や単位、期間を毎年一貫させる必要があります。
網羅性:Scope1、2、3の各カテゴリにおいて、主要な排出源からのデータが漏れなく収集されているかを確認します。
一貫性:毎年同じ計測方法、同じデータソース、同じ報告単位でデータを収集することで、経年変化を正確に追跡し、排出削減の進捗を評価できるようにします。
4. 適切な計測方法と頻度
データ収集においては、排出源の種類に応じて適切な計測方法と頻度を設定します。
自動計測:電力メーター、ガスメーター、燃料タンクの残量計など、自動でデータを記録する設備を活用します。
手動計測:自動計測が難しい場合は、定期的な目視確認や記録を行います。
頻度:月次、四半期、年次など、データの変動性や重要度に応じて適切な収集頻度を定めます。例えば、電力使用量は月次で収集し、燃料消費量は購入時に記録するなどです。
データ収集における注意点と課題、対処法
データ収集は多くの企業にとって課題となるプロセスです。以下の注意点を踏まえ、適切な対処法を講じることが求められます。
1. データ品質の確保
収集したデータの品質が低いと、算定結果の信頼性が大きく損なわれます。
データの検証:収集したデータに異常値がないか、過去のデータと比較して大きな乖離がないかなどを確認します。必要に応じて、データ提供元に確認を求めます。
データソースの明確化:各データの情報源(例:電力会社の請求書、燃料購入伝票)を明確にし、いつでも遡って確認できるようにします。
担当者の教育:データ収集を担当する従業員に対し、GHG排出量算定の重要性やデータ収集の具体的な方法、注意点について教育を行います。
2. データ不足への対処法
特にScope3の算定においては、サプライヤーからのデータが入手困難な場合や、自社で計測できない活動量が多く存在します。
二次データの活用:一次データが入手できない場合は、業界平均値、国が公表している統計データ、学術論文などで公表されている排出原単位や活動量データ(二次データ)を代替として使用します。ただし、その際は使用した二次データの情報源と、それが自社の実態をどの程度反映しているかを明確に記録し、透明性を確保することが重要です。
推計による補完:類似の活動や製品のデータを用いて推計を行うことも検討します。推計を行う場合は、その根拠と仮定を明確に文書化し、不確実性を評価します。
サプライヤーへの働きかけ:サプライヤーに対してGHG排出量算定の協力を依頼し、データ提供を促すためのエンゲージメントを強化します。
3. サプライヤーとの連携
Scope3排出量の算定には、サプライチェーン上の他社のデータが不可欠です。
コミュニケーションの強化:サプライヤーに対し、GHG排出量算定の目的と重要性を説明し、データ提供への理解と協力を求めます。
データ提供フォーマットの統一:サプライヤーからのデータ収集を効率化するため、共通のデータ提供フォーマットやツールを導入することを検討します。
能力構築支援:サプライヤーがGHG排出量算定に取り組むための支援(情報提供、トレーニングなど)を行うことも有効です。
4. データの管理と記録
収集したデータは、適切に管理・記録することが求められます。
データベースの構築:収集したデータを一元的に管理するためのデータベースやシステムを構築します。これにより、データの検索、分析、更新が容易になります。
文書化:算定対象範囲、データ収集方法、使用した排出原単位、データソース、推計方法など、算定プロセスに関するすべての情報を詳細に文書化します。これは、第三者検証を受ける際や、将来の算定担当者への引き継ぎにおいて不可欠です。
データの保管:収集したデータや関連文書は、一定期間(例えば5年間など)適切に保管します。
まとめ
GHG排出量算定の基礎となるデータ収集は、算定結果の信頼性を左右する極めて重要なステップです。
算定境界の明確化、一次データの優先、データの網羅性と一貫性、適切な計測方法と頻度といったポイントを押さえることが求められます。
また、データ品質の確保、データ不足への対処法(二次データの活用や推計)、サプライヤーとの連携、そしてデータの適切な管理と記録といった注意点を踏まえ、実務を進める必要があります。
これらの取り組みを通じて、企業は信頼性の高いGHG排出量インベントリを構築し、効果的な脱炭素化戦略へと繋げることができるでしょう。
今回はデータ収集のポイントと注意点について解説しました。
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参考資料
GHG Protocol. Standards & Guidance.
https://ghgprotocol.org/standards-guidance
GHG Protocol. Corporate Standard.
https://ghgprotocol.org/corporate-standard
GHG Protocol. The Greenhouse Gas Protocol: A Corporate Accounting and Reporting Standard (Revised Edition).
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/standards/ghg-protocol-revised.pdf
GHG Protocol. Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard.
https://ghgprotocol.org/standards/scope-3-standard