はじめに

企業の温室効果ガス(GHG)排出量算定・報告の世界的なスタンダードであるGHGプロトコルは、気候変動対策の進展とともにその重要性を増してきました。

しかし、その主要な基準が策定されてから約20年が経過し、現在の社会情勢や科学的知見、ビジネス環境の変化に対応するため、大規模な改訂プロセスが現在進行中です。

本記事では、なぜ今GHGプロトコルの基準改訂が必要とされているのか、その背景と、特に議論の焦点となっている主要な論点について詳しく解説します。

GHGプロトコル基準改訂の背景:20年の時を経て

GHGプロトコルの「事業者排出量算定報告基準(Corporate Standard)」は、2001年に初版が公表され、2004年に改訂版が発行されました。

また、サプライチェーン排出量に特化した「Scope3基準(Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard)」も2011年に発行されています。これらの基準は、その後の企業のGHG排出量管理の基盤となり、世界中で広く採用されてきました。

しかし、これらの主要な基準が策定されてから約20年が経過する中で、気候変動を取り巻く状況は大きく変化しました。

気候科学の進展:気候変動に関する科学的知見は深化し、排出量削減の緊急性がより明確になりました。

国際的な枠組みの変化:パリ協定の採択や、各国政府による脱炭素政策の強化が進み、企業への期待と要請が高まりました。

ビジネス環境の変化:再生可能エネルギー技術の発展、新たなビジネスモデルの登場、サプライチェーンの複雑化など、企業活動の実態が多様化しました。

ステークホルダーの要求:投資家や顧客、規制当局は、企業のGHG排出量に関するより詳細で信頼性の高い情報開示を求めるようになりました。

このような変化に対応し、GHGプロトコルが引き続き効果的かつ関連性の高い基準であり続けるためには、既存の基準を見直し、現代の課題に即した内容へとアップデートすることが不可欠となっています。

なぜ今、改訂が必要とされているのか

GHGプロトコルの基準改訂は、以下の主要な目的のために進められています。

改訂の主要目的 概要
明確性と一貫性の向上 既存の基準における解釈の余地や、新たな技術・ビジネスモデルへの適用に関する不明確な点を解消し、より一貫性のある算定・報告を可能にするため。
網羅性の強化 土地利用、炭素除去、バイオジェニック排出など、これまで十分にカバーされていなかった排出源や概念を適切に組み込むため。
信頼性の確保 算定結果の信頼性を高め、第三者検証を容易にするためのガイダンスを強化するため。
国際的な整合性 他の国際的な報告枠組み(TCFD、ISSBなど)との整合性を高め、企業の情報開示負担を軽減するため。

これらの目的を達成することで、企業はより正確で比較可能なGHG排出量情報を開示できるようになり、グローバルな気候変動対策の推進に貢献することが期待されています。

議論の焦点となっている主要論点

現在進行中のGHGプロトコル基準改訂プロセスでは、特に以下の点が主要な議論の焦点となっています。

1. Scope2の算定方法の見直し

Scope2排出量(購入した電力、熱、蒸気、冷熱の使用に伴う間接排出)の算定方法は、長らく議論の対象となってきました。

現在のガイダンスでは、電力系統全体の平均排出係数を用いる「ロケーション基準」と、再生可能エネルギー証書などの契約情報に基づく「マーケット基準」の2つのアプローチが推奨されています。

改訂では、これらのアプローチの適用方法、特に再生可能エネルギーの調達が排出量にどのように反映されるべきかについて、より明確なガイダンスが求められています。

例えば、再生可能エネルギーの契約形態が多様化する中で、実質的な排出削減効果をどのように評価し、二重計上を防ぐかなどが議論されています。

2. 土地利用、土地利用変化、林業(LULUCF)関連の排出・吸収

土地利用の変化(森林伐採、農地転用など)や林業活動は、GHGの排出源にも吸収源にもなり得ます。

しかし、これまでの企業排出量算定基準では、LULUCF関連の排出・吸収の取り扱いが十分に明確ではありませんでした。

改訂では、企業が自社の事業活動に関連するLULUCFからの排出・吸収をどのように算定・報告すべきか、その範囲と方法論について新たなガイダンスが検討されています。

これは、特に農業、林業、食品産業など、土地利用に大きく依存する企業にとって重要な変更となる可能性があります。

3. 炭素除去(Carbon Removals)とカーボンクレジットの取り扱い

大気中のCO2を直接除去する技術(DAC: Direct Air Capture)や、植林によるCO2吸収など、炭素除去技術への関心が高まっています。

また、カーボンクレジット(排出権)の活用も企業の脱炭素戦略において重要な要素です。

改訂では、企業が自社のGHGインベントリにおいて、これらの炭素除去活動やカーボンクレジットをどのように計上し、報告すべきかについて、より明確なルールが議論されています。

特に、排出削減目標の達成状況を評価する際に、炭素除去やクレジットがどのように貢献するのか、その透明性と信頼性を確保するための枠組みが求められています。

4. バイオジェニック排出(Biogenic Emissions)の明確化

バイオジェニック排出とは、バイオマス(生物由来の資源)の燃焼や分解によって発生するGHG排出を指します。

これまでの基準では、バイオジェニックCO2は特定の条件下で「カーボンニュートラル」と見なされることがありましたが、その取り扱いについてさらなる明確化が求められています。

改訂では、バイオジェニック排出の算定方法や報告方法、特に持続可能なバイオマス利用との関連性について、より詳細なガイダンスが検討されています。

まとめ

GHGプロトコルの主要な基準は、約20年前に策定されて以来、気候変動を取り巻く状況の大きな変化に直面しています。

このため、明確性、網羅性、信頼性、国際的な整合性を向上させることを目的として、現在大規模な基準改訂が進められています。

特に、Scope2の算定方法、土地利用関連の排出・吸収、炭素除去とカーボンクレジットの取り扱い、バイオジェニック排出の明確化などが主要な議論の焦点となっています。

これらの改訂は、企業のGHG排出量算定・報告の実務に大きな影響を与える可能性があり、企業は最新の動向を注視し、適切な対応を準備していく必要があります。


今回はGHGプロトコルの基準改訂の概要について解説しました。

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参考資料

GHG Protocol. Standards & Guidance.
https://ghgprotocol.org/standards-guidance

GHG Protocol. Corporate Standard.
https://ghgprotocol.org/corporate-standard

GHG Protocol. The Greenhouse Gas Protocol: A Corporate Accounting and Reporting Standard (Revised Edition).
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/standards/ghg-protocol-revised.pdf

GHG Protocol. Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard.
https://ghgprotocol.org/standards/scope-3-standard