はじめに

建設業界において、建物のライフサイクル全体にわたる環境負荷、特に「エンボディード・カーボン(建物の建設時に排出されるCO2)」の削減は、喫緊の課題となっています。

環境規制の強化やESG投資の拡大に伴い、建築プロジェクトにおける環境性能の可視化と改善は、企業の競争力を左右する重要な要素です。こうした背景から、建設業界に特化したLCA(ライフサイクルアセスメント)ソフトウェアへの注目が高まっています。

中でも「OneClickLCA」は、その卓越した機能と建設業界への深い専門性により、世界中のLCA実務者から高い評価を得ています。特に、BIM/Excel連携による効率的なデータ入力と、EPD(環境製品宣言)作成支援の強みは、建設業界のLCA担当者にとって大きなメリットをもたらします。

本記事では、OneClickLCAの基本的な情報から、その強力な機能、メリット・デメリット、価格体系、そしてどのような企業やプロジェクトに最適なのかを深く掘り下げて解説します。OneClickLCAの導入を検討されているLCA担当者の皆様が、自社に最適なツールであるかを見極めるための判断材料を提供します。

1. OneClickLCAの概要と開発元

OneClickLCAは、フィンランドの建設テック企業であるOne Click LCA Ltd.(旧Bionova Ltd.)によって開発された、建築・建設業界に特化したLCAソフトウェアです。2001年の設立以来、建設分野の持続可能性評価に焦点を当て、世界170カ国以上で利用されています。

同社は、建築物のライフサイクル全体(資材調達から建設、運用、解体まで)のCO2排出量を精緻かつ効率的に算定できるソリューションを提供しており、LEED、BREEAM、DGNBなど50以上の世界のグリーンビルディング認証との連携にも強みを持っています。AIを活用した自動化機能も開発されており、LCAのプロセスを大幅に効率化しています。

2. 機能と特徴:OneClickLCAのメリット・デメリット

OneClickLCAは、建設業界特有のニーズに深く応える機能と強みを持つ一方で、特定の考慮事項も存在します。

・メリット

1. 建設業界特化の世界最大級LCAデータベース

20万件を超える最新の建設LCAデータポイントを検証済みで、世界最大級の建設製品LCAデータベースを誇ります。ISO準拠の汎用データ、環境認証ラベルEPD、プライベートデータなど多様な原単位を利用でき、精度の高いLCA算定を可能にします。

2. BIM/Excel連携による効率的なデータ入力

・BIM連携: BIM(Building Information Modeling)ソフトウェアからのデータ取り込みに対応しており、設計段階での資材データをLCAモデルにシームレスに連携できます。これにより、手動でのデータ入力の手間を大幅に削減し、設計変更に伴うLCAの再計算も迅速に行えます。

  • BIM連携:BIM(Building Information Modeling)ソフトウェアからのデータ取り込みに対応しており、設計段階での資材データをLCAモデルにシームレスに連携できます。これにより、手動でのデータ入力の手間を大幅に削減し、設計変更に伴うLCAの再計算も迅速に行えます。
  • Excel連携:Excelからのデータインポートも可能で、既存の資材リストや数量データを活用して効率的にLCAを実施できます。資材原単位の紐づけ記憶・自動紐づけ機能も備わっており、過去のプロジェクトデータを活かした作業効率化が図れます。

3. EPD作成・国際認証への高い適合性:

  • EPDジェネレーター: 環境製品宣言(EPD)の作成プロセスを自動化するEPDジェネレーターを提供しています。これにより、ISO21930に準拠したEPDの取得申請手続きをソフトウェア上で完結でき、取得にかかるコストと時間を低減します。
  • グリーンビルディング認証対応: LEED、BREEAM、DGNBなど、80以上の世界的なグリーンビルディング認証、基準、規制に適合しています。プロジェクトの認証取得を強力にサポートし、環境性能の客観的な証明を容易にします。

4. エンボディード・カーボン算定と可視化

資材調達から輸送、建設、改修、解体におけるCO2排出量であるエンボディード・カーボンを精緻に算定し、可視化します。木材など、資材の炭素固定量も算定できるため、木造建築の環境メリットも明確に評価できます。

5. AI活用による自動化と初期設計段階からの最適化

AIを活用したLCAにより、最小限の労力でプロジェクトの全段階における炭素の定量化と削減を実現します。カーボン・デザイナー3D機能では、設計前に目標と設計手法を設定し、設計の初期段階で具体化炭素削減を確定できるため、早期からの環境配慮設計を支援します。

6. 専門家によるグローバルサポート

認定された設計・建設LCAの専門家によるグローバルなカスタマーサポートが提供されており、LCAの実施に関する疑問や課題に対して適切な支援が受けられます。

・デメリット

1. 建設業界特化

建設業界に特化したソフトウェアであるため、他の産業分野でのLCAには適していません。

2. 価格体系の不透明性

価格は公開されておらず、カスタム見積もりが必要です。初期導入の検討段階で具体的な予算感を把握しにくい場合があります。

3. 高度な機能の習熟

BIM連携やEPD作成など、高度な機能を最大限に活用するためには、一定の学習と習熟期間が必要になる場合があります。

3. 価格・ライセンス体系

OneClickLCAのライセンス費用は公開されておらず、企業の具体的なニーズ、プロジェクトの規模、必要な機能に応じて個別に見積もられます。一般的に、年間サブスクリプション形式で提供され、年間費用は数千ユーロから数万ユーロ程度が目安となります。

主なライセンス形態(例)

エキスパートライセンス プライベートの汎用データ登録、多種多様なグラフ出力、カーボンデザイナー3D、ビルディングサーキュラリティ(建物の循環性評価)、研修・サポートなどが含まれます。
LEED認証オプション LEED認証取得をサポートする追加オプション。
複数ユーザーライセンス チームでの利用を想定した複数ユーザー対応ライセンスも提供されています。

正確な価格や、貴社に最適なライセンスプランについては、OneClickLCAの販売代理店または提供元への直接問い合わせが必要です。

4. 想定される利用者と活用シーン

OneClickLCAは、その建設業界特化の機能とEPD作成支援の強みから、以下のような利用者や活用シーンに最適です。

・建設会社・ゼネコン

建設プロジェクト全体のCO2排出量(エンボディード・カーボン)を算定・削減し、環境配慮型建築を推進したい企業。

・デベロッパー

環境性能の高い建物を開発し、ESG投資家やテナントのニーズに応えたい企業。グリーンビルディング認証の取得を目指すプロジェクト。

・設計事務所・建築家

設計段階からLCAを組み込み、環境負荷の低い建材選定や設計最適化を図りたい専門家。BIMデータを活用した効率的なLCA実施。

・建材メーカー

自社製品のEPDを作成し、環境性能を透明性高く開示することで、市場での競争優位性を確立したい企業。

・インフラプロジェクトの担当者

空港、橋、道路などのインフラプロジェクトにおける環境影響を定量的に評価し、持続可能なインフラ整備を推進したい組織。

まとめ

OneClickLCAは、建築・建設業界のLCA課題に特化した、包括的かつ効率的なソフトウェアソリューションです。世界最大級の建設LCAデータベース、BIM/Excel連携によるデータ入力の自動化、EPD作成支援、そして多岐にわたるグリーンビルディング認証への適合は、建設業界のLCA実務者にとって強力なツールとなります。


エンボディード・カーボン削減や環境情報開示が必須となる時代において、OneClickLCAは貴社の持続可能な建築プロジェクトを成功に導くための不可欠なパートナーとなるでしょう。

OneClickLCAの導入をご検討中、あるいは貴社の建設プロジェクトにおけるLCAの課題解決をお考えの場合は、弊社のLCA専門家にご相談ください。
OneClickLCAを含む最適なツール選定から導入支援、LCA算定の実務、そしてEPD作成や認証取得まで、一貫してサポートいたします。

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参考資料

LCAソフトウェアによる設計・建設における体積炭素の削減
https://oneclicklca.com/ja/software/design-construction

住友林業 OneClickLCA Webサイト
https://sfc.jp/treecycle/value/oneclicklca/