はじめに

「環境に配慮した製品づくり」や「サステナビリティ経営」が企業の成長に不可欠となった現代。

皆様の会社でも、これらの言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。

しかし、「具体的に何から始めれば良いのか」「自社製品の環境への影響をどう評価すれば良いのか」とお悩みの方も少なくないはずです。

その強力な解決策となるのが、今回ご紹介するLCA(ライフサイクルアセスメント)です。

この章では、LCAの定義から、その中心的な考え方であるライフサイクル、そしてLCAが目指す環境評価の目的まで、基本の「き」を分かりやすく解説します。

この記事を読めば、LCAがなぜ今、これほどまでに重要視されているのかが理解できるはずです。

LCAとは - 科学的な環境評価のものさし

LCAとは、Cycle Assessmentの略称です。

直訳すると「製品の一生(ライフサイクル)を評価(アセスメント)すること」となります。

国際標準化機構(ISO)では、LCAを次のように定義しています。

「製品システム(※)のライフサイクルにわたる、インプット、アウトプット及び潜在的な環境影響の集計及び評価」(ISO14040より抜粋・要約)

※製品システム:一つ以上の定められた機能を持つ製品を生み出す、単位プロセスの集まり

少し難しく聞こえるかもしれませんが、ポイントは「製品の一生」と「環境への影響」を「科学的・定量的」に評価する、という点です。

ある製品が環境に良いかどうかを判断する際、「燃費が良いからエコ」「リサイクル素材を使っているからエコ」といった一部分だけを見てしまいがちです。

しかしLCAは、そうした一面的な評価ではなく、製品の全生涯にわたる環境負荷を総合的に評価するための「ものさし」なのです。

LCAの核となる考え方:「ライフサイクル」とは?

LCAを理解する上で最も重要なキーワードが「ライフサイクル」です

これは、製品が生まれてからその役目を終えるまでの一連の流れを指し、「ゆりかごから墓場まで(Cradle-to-Grave)」という言葉で表現されます。

具体的に、1本のペットボトルを例に考えてみましょう。

【表:ペットボトルのライフサイクル(ゆりかごから墓場まで)】

ステージ 内容 主なインプット(投入) 主なアウトプット(排出)
① 資源採掘(ゆりかご) 原油を採掘する 掘削機械の燃料、電力 CO2、大気汚染物質
② 原材料調達 原油からペット樹脂を製造する 石油、化学薬品、電力 CO2、排水、化学物質
③ 製品製造・組立 ペット樹脂からボトルを成形し、飲料を充填する ペット樹脂、水、電力 CO2、廃棄物、排水
④ 流通・販売 工場から店舗へトラックなどで輸送する 軽油などの燃料 CO2、NOx、SOx
⑤ 使用・消費 消費者が飲料を飲む (特になし) (特になし)
⑥ 廃棄・リサイクル(墓場) 飲み終えたボトルを廃棄・回収・処理する 収集車の燃料、処理施設の電力 CO2、焼却灰、処理後の廃棄物
LCA(ライフサイクルアセスメント)のイメージ

図:ライフサイクルアセスメントの工程イメージ

LCAの目的:なぜ「環境評価」が必要なのか?

では、なぜ時間とコストをかけてまで、このような包括的な環境評価を行う必要があるのでしょうか。その目的は多岐にわたりますが、主に以下の4点が挙げられます。

1. 環境負荷の全体像の把握とホットスポットの特定
ライフサイクル全体を見渡すことで、どの段階(ホットスポット)で最も環境負荷が大きいのかを特定できます。
これにより、効果的な改善策を効率よく打つことが可能になります。

2. 客観的なデータに基づく意思決定の支援
「AとB、どちらの材料がより環境に優しいか」「設計変更は本当に環境負荷削減につながるか」といった問いに対し、LCAは定量的で客観的な判断材料を提供します。
勘やイメージに頼らない、科学的根拠に基づいた意思決定を支援します。

3. 環境性能に関する信頼性の高い情報開示
消費者や投資家、取引先に対して、自社製品の環境性能を客観的なデータで示すことができます。
エコラベルの取得や環境報告書(CSRレポート)、統合報告書での情報開示に活用することで、企業の透明性と信頼性を高めます。

4. 新たなビジネスチャンスの創出
LCAを通じて自社製品の環境優位性をアピールすることは、環境意識の高い顧客層への強力な訴求力となり、新たな市場やビジネスチャンスの獲得につながります。

また、上記以外にもLCAは、政策やマーケティング、環境教育などの幅広い分野での活用が期待されており、重要なツールとされています。

LCA(ライフサイクルアセスメント)のイメージ

図:ライフサイクルアセスメントの工程イメージ

このように、LCAは単なる分析ツールではありません。

企業の環境戦略を支え、持続可能な社会の実現に貢献し、ひいては企業の競争力強化にもつながる、極めて重要な経営ツールなのです。

次の節では、LCAを導入することで企業が得られる、より具体的なメリットについて掘り下げていきます。

【参考文献】

ISO 14040:2006, Environmental management — Life cycle assessment — Principles and framework.
https://www.iso.org/standard/37456.html

産業環境管理協会「環境経営実務コース、環境適合製品・サービス支援手法コース ライフサイクルアセスメント」
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/3r_policy/policy/pdf/text_2_3_a.pdf