はじめに

LCA(ライフサイクルアセスメント)を進める上で、最も重要かつ時間のかかるステップの一つが「ライフサイクルインベントリ(LCI)」です。

LCIでは、製品やサービスのライフサイクル全体で、どのような資源が投入され、どのような排出物が生じるのか、そのすべてを洗い出し、定量化します。

ここでは、特に重要な原材料やエネルギーデータのデータ収集手法と、その信頼性を確保するためのポイントを具体的にご紹介します。

LCIにおけるデータ収集の重要性

LCAの評価結果は、LCIで収集されるインベントリデータの質に大きく左右されます。

もし、データが不正確であったり、網羅されていない場合、LCAの結果も現実とはかけ離れたものになってしまいます。

インベントリ分析のデータ収集

図 インベントリ分析のデータ収集

データ収集の具体的な手法

LCIのデータ収集には、主に以下の2つのアプローチがあります。

1. 一次データ(実測データ)の活用

最も理想的なのは、自社やサプライヤーから直接得られる実測データ、つまり「一次データ」を収集することです。これは、実際の生産プロセスや使用状況を反映しているため、最も信頼性の高いデータと言えます。

収集方法の例:

・製造ラインでの原材料投入量、エネルギー消費量の直接測定

・サプライヤーからの部品や材料の環境データシート(例:カーボンフットプリント情報)の入手

・廃棄物処理量や排出ガス量の計測

一次データの収集は手間と時間がかかりますが、その分、自社の製品やサービスに特化した、より正確なLCA結果を得ることができます。

2. 二次データ(既存データベース・文献値)の活用

一次データの入手が難しい場合や、LCAの初期段階で全体像を把握したい場合には、既存のデータベースや文献から得られる「二次データ」を活用します。

主な二次データソースの例:

LCIデータベース:IDEA,3EID(日本)、ecoinvent(スイス)、GaBi-Database(ドイツ)など、製品や材料、エネルギー生産に関する環境負荷データが体系的にまとめられています。有償・無償のものがあります。

公的機関の統計データ:経済産業省の工業統計、資源エネルギー庁のエネルギー統計など、国や産業全体の平均的なデータが公開されています。

学術論文や報告書:特に新しい技術や製品の場合、既存のデータベースにデータがないこともあります。その際は、関連する研究論文や業界報告書から推定値を収集することもあります。

二次データは手軽に利用できる反面、自社の状況と完全に一致しない可能性があるため、データの適用範囲や前提条件をよく確認することが重要です。

データ品質確保と信頼性向上のポイント

収集したデータの信頼性を高めるためには、以下の点に注意が必要です。

データ品質要件の明確化 ISO 14044では、LCAデータの品質要件として「時間に関する範囲」「地理的な範囲」「技術の範囲」「正確さ」「完全性」「代表性」「整合性」「再現性」などを考慮するよう求めています。LCAの目的とスコープ(評価範囲)に合わせて、これらの要件を事前に明確にしておくことが重要です。
データソースの透明性 どのデータソース(データベース名、バージョン、文献名など)を使用したかを明確に記録し、そのデータの出所や取得条件、適用可能範囲を把握しておくことで、結果の透明性と信頼性が向上します。
データの網羅性 ライフサイクル全体で発生する主要なインプット(原材料、エネルギー)とアウトプット(製品、排出物、廃棄物)を漏れなく収集することが重要です。特に、微量であっても環境負荷が大きい物質や、サプライチェーンの上流で発生する負荷を見落とさないように注意しましょう。
不確実性分析の実施 データの入手が困難であったり、推定値を使用したりする場合には、そのデータの不確実性を認識し、感度分析(特定のデータが結果にどれくらい影響するかを分析すること)を行うことで、LCA結果の頑健性を評価できます。
専門家との連携 LCAの専門家やコンサルタントと連携することで、適切なデータ収集方法のアドバイスを受けたり、データの妥当性を検証してもらったりすることができます。

まとめと次のステップ

ライフサイクルインベントリ(LCI)におけるデータ収集は、LCAの基盤となる非常に重要なプロセスです。

一次データと二次データを適切に組み合わせ、データの信頼性と品質を確保することが、LCAの正確な結果と、それに基づく効果的な環境戦略の策定につながります。

次回は、収集したインベントリデータをどのように環境影響に換算し、解釈していくのか、LCAの「インパクト評価(LCIA)」について詳しく解説します。

LCAの各ステップを理解することで、貴社のサステナビリティ推進に役立つ知見が得られるはずです。

参考文献

AIST-IDEA Ver.3.5.1 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 IDEAラボ
https://riss.aist.go.jp/idealab/idea/development/

Ecoinvent Association, Zurich, Switzerland
https://ecoinvent.org/

GaBi, Sphera Solutions, Inc.
https://sphera.com/solutions/product-stewardship/life-cycle-assessment-software-and-data/