はじめに
これまでの記事で、LCA(ライフサイクルアセスメント)の基本的な概念から、LCI(ライフサイクルインベントリ)でのデータ収集、そしてLCIA(ライフサイクルインパクト評価)での結果の解釈までを解説してきました。
LCAは単なる環境負荷の「評価」で終わるものではありません。
その真価は、得られた結果を具体的なビジネスアクション、特に製品のデザインや材料選定に活かすことで発揮されます。
今回は、LCAの結果をどのように製品設計や材料選定に応用し、より環境負荷の低い製品を生み出すかについて、具体的な実例を交えながら解説します。
LCA結果が製品設計・材料選定に与える影響
LCAを実施することで、製品のライフサイクル全体(原材料調達、製造、輸送、使用、廃棄など)のどの段階で、どのような環境負荷が最も大きく発生しているか(ホットスポット)を特定できます。
このホットスポットを特定することが、効率的な環境改善策を講じる上で非常に重要です。
例えば、ある製品のLCA結果から「原材料の製造段階で最も多くのCO2が排出されている」ということが分かれば、その原材料の材料選定を見直すことが、環境負荷低減の最も効果的なアプローチとなります。
また、「製品の使用段階での電力消費が大きい」と判明すれば、省エネルギーなデザインへの変更が求められます。
LCAは、感覚や推測ではなく、データに基づいた客観的な意思決定を可能にし、環境負荷低減と同時にコスト削減やブランド価値向上にも貢献します。
LCAを活用した材料選定のポイント
LCAの結果は、環境負荷の低い材料選定を促進するための強力な指針となります。
1. 環境負荷の低い材料への転換 : LCAで特定されたホットスポットが原材料にある場合、より環境負荷の低い代替材料への転換を検討します。
転換例 | 概要 |
---|---|
低炭素材料の採用 | 製造時のCO2排出量が少ない材料や、製造プロセスで再生可能エネルギーが使われている材料の選定。 |
リサイクル材料の活用 | 新規資源の使用を減らし、廃棄物削減にも貢献します。例えば、再生プラスチックや再生アルミニウムへの切り替え。 |
生物多様性 | 温暖化や土地開発、富栄養化などが、生物種の絶滅に与える影響。絶滅に追いやられる種の数(EINES: Expected Number of Extinctions)や1年間の100万種あたりの絶滅種数(E/MSY)などで評価されます。 |
再生可能資源の利用 | 石油由来のプラスチックから、植物由来のバイオプラスチックやセルロース繊維などへの転換。 |
2. ライフサイクル全体での影響評価 : 単に「環境に良さそう」というイメージだけで材料選定を行うのではなく、その材料が製品のライフサイクル全体に与える影響をLCAで評価することが重要です。
例えば、ある材料は製造時の環境負荷が低くても、輸送時の軽量化に寄与せず、結果的に輸送段階での環境負荷が増大する可能性もあります。
従って、単一工程の改善のみならず、ライフサイクル全体を考えた設計改善が重要となります。
LCAを活用した設計改善(デザイン)のポイント
LCAは、製品のデザインそのものを見直すきっかけにもなります。
1. 軽量化による輸送効率の向上
軽量化は、輸送時の燃料消費を抑え、CO2排出量を削減する上で非常に効果的です。
事例 : 自動車業界では、車体の軽量化が燃費向上に直結するため、高強度鋼板やアルミニウム合金、炭素繊維複合材料などの採用が進められています。
LCAにより、これらの材料が製造段階で高い環境負荷を持つ場合でも、使用段階での燃費改善効果がそれを上回ることを確認し、総合的な環境負荷低減を実現しています。
2. 長寿命化・修理容易性の追求
製品の寿命を延ばすことで、買い替え頻度を減らし、製造・廃棄に伴う環境負荷を削減できます。
事例 : モジュール式の家電製品や、部品交換が容易なデザインを採用することで、製品全体の寿命を延ばし、廃棄量を削減する取り組みがあります。
3. リサイクル・分解しやすいデザイン
製品が廃棄される際に、効率的にリサイクルできるよう、分解しやすく、異なる素材が混ざりにくいデザインを検討します。
事例 : プラスチック製品において、異なる種類のプラスチックを接着剤で固定するのではなく、ねじ止めやはめ込み式にするなど、分解・分別を容易にするデザインが導入されています。
4. 部品点数の削減とシンプル化
部品点数を減らすことは、製造プロセスを簡素化し、使用する原材料の種類や量を削減することにつながります。これは、環境負荷低減だけでなく、コスト削減や生産効率向上にも寄与します。

図.LCAを活用した設計改善のポイント
まとめ
LCAは、製品の材料選定やデザインにおいて、環境負荷低減のための具体的な方向性を示す強力なツールです。
単に環境に良いイメージの材料を選ぶのではなく、ライフサイクル全体で最も効果的な改善点を見つけ出し、軽量化やリサイクルしやすいデザインなど、具体的なアクションへと繋げることが重要です。