はじめに

地球温暖化対策は、もはや企業の事業活動と切り離せない経営課題です。日本における地球温暖化対策の根幹をなすのが、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(通称:温対法)です。

この法律は、国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって温暖化対策に取り組むための枠組みを定めています。

本記事では、企業の気候変動担当者向けに、温対法の概要からその全体像、そして特に企業活動に関連の深い条文のポイントを解説します。

温対法とは:法律の概要と目的

温対法は、国、地方公共団体、事業者、国民がそれぞれの立場で温暖化対策に取り組むことを求めています。その全体像は、大きく以下の要素で構成されます。

1. 国の役割

温室効果ガス排出量の削減目標の設定、国家インベントリの作成、温対計画の策定、事業者への支援、情報提供など。

2. 地方公共団体の役割

地方公共団体実行計画の策定、地域の実情に応じた対策の実施、事業者・住民への啓発など。

3. 事業者の役割

温室効果ガス排出量の算定・報告・公表、自主的な排出削減努力、技術開発・普及など。

4. 国民の役割

日常生活における排出削減努力、環境配慮型製品の選択など。


これらの役割分担と連携により、日本全体で効果的な温暖化対策を推進することを目指しています。

温対法の重要条文と企業への影響

企業担当者として特に理解しておくべき温対法の重要条文とその内容は以下の通りです。

第8条:地球温暖化対策計画(温対計画)

この条文に基づき、政府は「地球温暖化対策計画」を策定します。

これは、日本の温室効果ガス排出削減目標(例:2030年度に2013年度比46%削減、2050年カーボンニュートラル)を達成するための具体的な施策や目標を定めた、国の最上位計画です。

企業は、この計画で示される国の方向性や産業ごとの目標を理解し、自社の事業戦略や設備投資計画に反映させる必要があります。計画の内容は定期的に見直されるため、常に最新情報を把握することが重要です。

第20条:温室効果ガス排出量の算定及び公表(国家インベントリ)

この条文は、国が日本の温室効果ガス排出量および吸収量を算定し、公表することを定めています。これが「国家インベントリ」と呼ばれるものです。国連気候変動枠組条約に基づき、毎年作成・提出されます。

国家インベントリは、日本の排出量削減目標の達成状況を客観的に示す基礎データとなります。企業が排出量削減に取り組むことは、この国家インベントリの改善に直接貢献することになります。

第21条:地方公共団体実行計画

地方公共団体は、その区域の自然的社会的条件に応じて、温室効果ガス排出量の削減目標や対策を盛り込んだ「地方公共団体実行計画」を策定することが義務付けられています。

この計画には、以下の2種類があります。

・事務事業編

地方公共団体自身の施設や事業活動からの排出削減に関する計画。

・区域施策編

その地方公共団体の区域全体からの排出削減に関する計画。


企業は、事業所が所在する地方公共団体の実行計画を確認し、地域の特性に応じた排出削減目標や施策に協力することが求められます。例えば、地域での再生可能エネルギー導入促進や省エネ推進事業への参加などが考えられます。

第21条の2:温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)

この条文は、通称「算定・報告・公表制度(SHK制度)」と呼ばれる、企業にとって最も直接的に関わる制度の根拠となります。

事業活動に伴い相当程度多くの温室効果ガスを排出する者(特定排出者)に対し、毎年度、事業所ごとに温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告することを義務付けています。国は報告されたデータを集計し、公表します。

対象事業者:主に、年間エネルギー使用量が原油換算で1,500kL以上(特定事業所排出者)または、連鎖化事業を営む事業者(特定連鎖化事業者)が対象となります。

報告内容:Scope 1(直接排出量)とScope 2(間接排出量)が主な対象です。

目的:事業者自身の排出量削減努力を促すとともに、排出量情報を透明化し、国民や投資家が企業の環境への取り組みを評価できるようにすることです。


企業担当者は、自社が特定排出者に該当するかを確認し、正確な排出量算定と報告体制を構築する必要があります。報告されたデータは公表されるため、企業イメージにも直結します。

まとめ

温対法は、日本の地球温暖化対策を推進するための包括的な法律であり、企業活動に多岐にわたる影響を与えます。

特に、GX-ETSの本格稼働を控える今、温対法の各条文が示す国の方向性や、排出量算定・報告の義務を深く理解することは、企業の持続可能な成長に不可欠です。

自社の排出量管理体制を強化し、法規制への確実な対応を進めることで、企業は気候変動リスクを管理し、新たなビジネス機会を創出することができるでしょう。

参考資料

環境省, 地球温暖化対策の推進に関する法律と地球温暖化対策計画
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/domestic.html

環境省, 環境省, 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/index.html

環境省, 地球温暖化対策計画(令和7年2月18日閣議決定)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/250218.html

環境省, 地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/

国立環境研究所, 日本の温室効果ガス排出量
https://www.nies.go.jp/gio/aboutghg/