はじめに

前回の記事「2-3 気候関連開示基準(テーマ別基準②)の深掘り」では、気候関連のサステナビリティ情報開示における具体的な要件、特にシナリオ分析や温室効果ガス排出量(Scope1, 2, 3)の開示について解説しました。

第2章 SSBJ基準の具体的な内容理解

2-3:気候関連開示基準(テーマ別基準②)の深掘り


これらの複雑かつ広範な情報開示に対応するためには、強固な社内体制の構築が不可欠です。

今回は、SSBJ基準に対応するための社内体制の構築方法、担当部署の明確化、情報収集プロセスの確立、およびデータ管理の重要性について詳しく解説します。

なぜ今、強固な社内体制が求められるのか

SSBJ基準に基づくサステナビリティ情報開示は、単にデータを集めて報告するだけでなく、企業の経営戦略と深く結びついた取り組みです。

気候変動や人権といった多岐にわたるサステナビリティ課題は、企業の事業活動全体に影響を及ぼすため、特定の部署だけで対応することは困難です。

正確で信頼性の高い情報を継続的に開示するためには、全社的な協力体制と、それを支える明確な役割分担、効率的な情報収集・管理プロセスが不可欠となります。

これにより、企業は開示の義務を果たすだけでなく、サステナビリティを経営の中核に据え、企業価値向上へと繋げることができます。

SSBJ対応における社内体制構築の重要性

SSBJ基準への対応は、企業にとって以下のような点で社内体制構築の重要性を高めます。

情報の正確性と信頼性の確保​ 開示されるサステナビリティ情報は、投資家の意思決定に大きな影響を与えるため、財務情報と同等の正確性と信頼性が求められます。これを実現するためには、適切な内部統制とデータ管理体制が不可欠です。
効率的な情報収集と開示​ サステナビリティ情報は、複数の部署にまたがる多様なデータから構成されます。効率的な情報収集プロセスを確立することで、担当者の負担を軽減し、適時適切な開示を可能にします。
経営戦略との統合 サステナビリティ課題を経営戦略に統合し、リスクと機会を特定するためには、経営層のコミットメントと、各部署が連携して課題に取り組む体制が必要です。
国際的な要請への対応 ISSB基準との整合性を重視するSSBJ基準に対応するためには、国際的な開示トレンドを理解し、それに合わせた体制を構築することが求められます。

1. 担当部署の明確化と責任者の配置

SSBJ対応を円滑に進めるためには、まず担当部署を明確にし、責任者を配置することが重要です。

担当部署の選定​

・経営企画部門:経営戦略との連携や全社的な方針決定を担う中心的な役割を果たすことが多いです。

・サステナビリティ推進部門:専門部署として、サステナビリティ戦略の策定から情報開示の実務までを一元的に管理します。

・IR部門:投資家との対話窓口として、開示情報の作成やコミュニケーション戦略を担います。

・経理・財務部門:財務情報との連携や、サステナビリティ関連の財務的影響の評価において重要な役割を果たします。

責任者の配置​

サステナビリティ情報開示に関する最終的な責任者を明確にすることで、意思決定の迅速化と責任の所在を明確にします。

責任者は、経営層の一員であるか、経営層と密接に連携できる立場にあることが望ましいです。

責任者は、サステナビリティに関する深い知識と、社内外の関係者と調整できるリーダーシップが求められます。

経営層のコミットメント

取締役会や経営会議において、サステナビリティ課題が重要な経営アジェンダとして位置づけられ、経営層が積極的に関与する姿勢を示すことが、全社的な取り組みを推進する上で不可欠です。

2. 情報収集プロセスの確立

SSBJ基準が求める多岐にわたる情報を効率的かつ正確に収集するためのプロセスを確立することが重要です。

・必要な情報の特定

SSBJ基準(適用基準、一般開示基準、気候関連開示基準)の要求事項を詳細に理解し、開示が必要な情報を具体的に特定します。

GHG排出量(Scope1, 2, 3)、水使用量、廃棄物発生量、従業員の多様性、人権に関する情報など、定量的・定性的な情報を網羅的に洗い出します。

・各部署からのデータ収集方法

データ収集システムの導入:サステナビリティ関連のデータを一元的に管理できるシステムを導入することで、手作業によるミスを減らし、効率性を高めます。

担当者からのヒアリング:各部署の担当者から直接情報を収集するための定期的な会議やヒアリングを設定します。

既存システムの活用:既存の生産管理システム、人事システム、会計システムなどから、サステナビリティ関連のデータを抽出・連携できるか検討します。

・収集頻度とスケジュール

開示のタイミングに合わせて、データの収集頻度とスケジュールを明確に定めます。年次報告書だけでなく、四半期ごとの進捗確認なども検討します。

データ収集から開示までのリードタイムを考慮し、余裕を持ったスケジュールを設定します。

3. データ管理の重要性と具体的な方法

収集したサステナビリティデータの正確性、完全性、一貫性を確保し、信頼性の高い情報として開示するためには、適切なデータ管理が不可欠です。

・データの正確性・完全性・一貫性の確保

データ入力時のチェック体制や、複数人による確認プロセスを導入します。

データ定義を明確にし、各部署で同じ基準に基づいてデータが収集・入力されるようにします。

過去データとの比較可能性を確保するため、データ収集方法や算定基準の変更があった場合は、その影響を適切に開示します。

・データ管理システムの導入

サステナビリティデータ管理に特化したソフトウェアやクラウドサービスを導入することで、データの収集、集計、分析、報告までを一元的に管理し、効率化を図ります。

データのバージョン管理やアクセス権限の設定など、セキュリティ対策も考慮します。

・データの保管とセキュリティ

収集したデータは、適切な期間、安全な方法で保管します。

個人情報や機密情報を含むデータについては、厳格なセキュリティ対策を講じ、情報漏洩のリスクを最小限に抑えます。

・内部監査と第三者保証

データ管理プロセスや開示情報の内部監査を定期的に実施し、改善点を発見します。

特に重要な情報については、第三者による保証(監査)を導入することで、開示情報の信頼性をさらに高めます。

まとめ

SSBJ基準に対応するためには、担当部署の明確化、責任者の配置、効率的な情報収集プロセスの確立、そして信頼性の高いデータ管理が不可欠です。

これらの社内体制を整備することで、企業はサステナビリティ情報を正確かつ透明性高く開示し、投資家からの信頼を獲得するとともに、持続可能な企業価値向上へと繋げることができます。


今回は、SSBJ対応に向けた社内体制構築の第一歩として、サステナビリティ情報開示体制の整備について解説しました。

次回の記事では、「3-2 関連部署との連携と役割分担」として、サステナビリティ情報開示に関わる経営層、経理部門、IR部門、事業部門など、各部署との連携の重要性とその具体的な進め方、役割分担について解説します。

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参考資料

SSBJ サステナビリティ基準委員会 Webサイト
https://www.ssb-j.jp/jp/

SSBJ サステナビリティ基準委員会 サステナビリティ基準委員会(SSBJ)
https://www.ssb-j.jp/jp/list-ssbj_2.html

IFRS Foundation
https://www.ifrs.org/

International Sustainability Standards Board - IFRS Foundation
https://www.ifrs.org/groups/international-sustainability-standards-board/

金融庁 金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/sustainability_disclose_wg_index.html

GHG Protocol. Standards & Guidance.
https://ghgprotocol.org/standards-guidance

GHG Protocol. Corporate Standard.
https://ghgprotocol.org/corporate-standard

GHG Protocol. The Greenhouse Gas Protocol: A Corporate Accounting and Reporting Standard (Revised Edition).
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/standards/ghg-protocol-revised.pdf