はじめに
これまでの節で、デジタルプロダクトパスポート(DPP)の定義とその役割、そして開示される情報要素について解説しました。
2-2:DPPで開示される情報要素
DPPが単なる紙の文書ではなく、製品のライフサイクル全体にわたる動的な情報をデジタルで管理する仕組みであることは明らかです。
では、この膨大な情報をどのように収集し、管理し、そしてサプライチェーン全体の関係者間で安全かつ効率的に共有するのでしょうか。その鍵を握るのが、DPPを支える技術的基盤と情報連携の仕組みです。
本記事では、DPPの技術的な側面、特にQRコード、RFID、ブロックチェーンといった主要技術の活用、そしてサプライチェーンにおけるデータ連携の重要性について詳しく解説します。
DPPを支える技術的基盤
DPPは、製品の物理的な識別とデジタル情報の紐付け、そしてその情報の安全な管理・共有を可能にする複数の技術を組み合わせて構築されます。
1. データキャリア(物理的な識別子):
QRコード:製品に印刷されたQRコードをスマートフォンなどでスキャンすることで、DPPのデジタル情報にアクセスできます。低コストで広く普及している点がメリットです。
RFIDタグ(Radio Frequency Identification):無線周波数を用いてタグ内の情報を読み書きする技術です。非接触で複数のタグを同時に読み取ることが可能で、物流や在庫管理において効率的な情報取得を実現します。
NFCタグ(Near Field Communication):RFIDの一種で、近距離無線通信技術です。スマートフォンとの連携が容易で、消費者向けのアクセス手段としても利用されます。 これらのデータキャリアは、製品一つ一つに固有の識別子を付与し、その識別子を通じてDPPのデジタル情報へとリンクさせます。
2. 情報管理・連携プラットフォーム:
DPPの核となるのは、製品ライフサイクル情報を一元的に収集・管理するデジタルプラットフォームです。このプラットフォームは、製品情報データベース、データ連携インターフェース、アクセス制御機能などを備えています。
データスペース:欧州では、自動車業界の「Catena-X」や化学業界の「Chem-X」など、業界ごとのデータスペース構築が進められています。これらのデータスペースは、各企業が自社のデータを主権的に管理しつつ、信頼できるパートナー間でのデータ共有を可能にする分散型データ連携基盤です。
ブロックチェーン技術:一部のDPPプロジェクトでは、ブロックチェーン技術の活用も検討されています。ブロックチェーンは、分散型台帳技術であり、一度記録された情報の改ざんが極めて困難であるという特性を持つため、DPPに求められるデータの信頼性や透明性の確保に貢献します。例えば、 Waste2Wear Blockchainの事例では、プラスチック廃棄物から繊維製品に至るまでの記録をブロックチェーンに記録し、偽造品対策にも活用されています。
サプライチェーンにおけるデータ連携の重要性
DPPの真価を発揮するためには、サプライチェーン全体におけるシームレスなデータ連携が不可欠です。
製品のライフサイクル情報は、原材料供給者、部品メーカー、製造業者、物流業者、小売業者、修理業者、リサイクル業者など、多数のステークホルダーによって生成・管理されます。
| 企業間データ連携の課題 | 現状、多くの企業では、部門ごとや企業ごとに異なる管理システムやデータフォーマットで情報を管理しており、情報の統合や標準化が十分ではありません。これにより、DPPに必要な情報の収集・共有が困難になるという課題があります。 |
|---|---|
| 標準化の推進 | 国際標準化機関は、DPP対応に必要となる「ユニーク性」を担保するGTIN(Global Trade Item Number)や、データキャリアに情報を書き込むための個別方式など、DPPの相互運用性を確保するための標準化活動を進めています。 |
| 信頼性の高いデータ取得体制 | サプライヤーからの情報連携も不可欠となるため、企業間データ連携あるいは外部データ連携基盤であるデータスペースを活用し、信頼性の高いデータ取得体制を構築することが重要です。特に中小サプライヤーのデータ提供能力向上も大きな課題となります。 |
| セキュリティとガバナンス | 公開される情報には機密性の高い技術情報も含まれるため、アクセス権限管理、サイバーセキュリティ対策、ログ管理など、情報保護の仕組みを組み込む必要があります。また、情報の正確性とトレーサビリティを担保するための社内ルール整備も不可欠です。 |
まとめ
デジタルプロダクトパスポート(DPP)は、QRコード、RFIDタグなどのデータキャリアで製品を物理的に識別し、データスペースやブロックチェーンといった情報管理・連携プラットフォームを通じて、そのデジタル情報を安全かつ効率的に共有する仕組みによって支えられています。
DPPの成功には、サプライチェーン全体におけるシームレスなデータ連携が不可欠であり、データ標準化の推進、信頼性の高いデータ取得体制の構築、そして厳格なセキュリティとガバナンスが求められます。
これらの技術的基盤と仕組みを理解し、適切に導入・運用することが、企業がDPP時代を乗り越え、持続可能なビジネスを確立するための鍵となるでしょう。
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参考資料
デジタル製品パスポート(DPP)とは?事業者が知るべき全体像と義務
https://alca-lca.com/magazine/standards-regulation/dpp-overview
一般財団法人流通システム開発センター「Digital Product
Passport (デジタル製品パスポート)」
https://www.gs1jp.org/standard/industry/dpp/
TUVSUD
JAPAN「ESPRとは?EUの持続可能な製品エコデザイン規則を詳しく解説」
https://www.tuvsud.com/ja-jp/resource-centre/stories/jp-espr
総合地球環境学研究所「サーキュラーエコノミーとDPP(デジタル製品パスポート)」
https://www.env.go.jp/content/000185559.pdf
KPMGコンサルティング「デジタル製品パスポートによるサステナビリティのシステム化」
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/11/eu-regulation-dpp.html
トレードログ「DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?サーキュラーエコノミーを実現させる欧州発の新ルールについて解説!」
https://trade-log.io/column/3143