はじめに
デジタルプロダクトパスポート(DPP)がもたらす影響は、サプライチェーンの効率化や新たなビジネス機会の創出にとどまりません。
現代において、消費者は製品の「価格」や「機能」だけでなく、「企業の姿勢」や「社会的価値」を購買判断の重要な基準として重視するようになっています。
DPPによる製品情報の透明化は、こうした消費者のニーズに応え、企業が消費者からの信頼を獲得し、ブランド価値を飛躍的に向上させるための強力なツールとなります。
本記事では、DPPによる情報開示が消費者の製品選択に与える影響と、企業が消費者との信頼を構築し、ブランド価値を高めるための戦略的意義について解説します。
DPPが変える消費者の製品選択
DPPの導入は、消費者が製品を選ぶ際のプロセスと基準に大きな変化をもたらします。
これまでアクセスが困難だった製品のライフサイクル情報が透明化されることで、消費者はより能動的で情報に基づいた購買行動が可能になります。
1. 情報の非対称性の解消
ESPRが定める製品の耐久性、修理可能性、リサイクル性、資源効率などのエコデザイン要件に適合することは、EU市場で製品を販売するための必須条件となります。早期かつ戦略的な対応は、競合他社に先駆けて市場アクセスを確保し、市場シェアを拡大する機会となります。DPPは、製品の原材料の出所、製造工程、環境負荷、修理可能性、リサイクル性など、これまで企業側しか知り得なかった情報を消費者に開示します。
これにより、企業と消費者の間の情報の非対称性が解消され、消費者は製品の「見えない価値」を評価できるようになります。
2. エシカル消費の促進
消費者の76%が「サステナブルなブランドを支持したい」と考えており、43%が「社会に貢献する企業から購入したい」と回答しています。DPPは、企業のサステナビリティへの真摯な取り組みを客観的なデータで裏付ける強力な証明となります。
製品の環境フットプリント、人権への配慮(児童労働の有無など)、リサイクル材の含有率といった具体的な情報が提供されることで、消費者は自身の価値観に合致した「エシカルな製品」を意識的に選択できるようになります。
3. パーソナライズされた情報提供
DPPは、製品固有の識別子を通じて、個々の製品に関する詳細な情報を提供できます。例えば、特定の製品の修理履歴や、その製品がリサイクルされた場合の環境効果などを消費者が直接確認できるようになります。
これにより、消費者は製品に対する理解を深め、よりパーソナルなレベルで製品とブランドにエンゲージメントを持つことができます。
信頼獲得とブランド価値向上への戦略
DPPによる情報開示は、企業が消費者との間に深い信頼関係を築き、ブランド価値を向上させるための重要な戦略的機会を提供します。
1. 透明性の高い情報開示による信頼獲得
曖昧なイメージ戦略ではなく、DPPを通じて原材料の調達先、製造過程での環境負荷低減、修理・リサイクルの容易さといった具体的な情報を開示することで、企業は顧客や投資家からの深い信頼を獲得できます。
製品の「真正性」を保証し、贋作のリスクを低減する役割も果たします。例えば、イタリアの高級革製品ブランドTOD’Sは、DPPを活用して製品の真贋証明や原材料のトレーサビリティを提供し、ブランドの透明性を強化しています。
2. サステナビリティへのコミットメントの明確化
DPPへの対応は、企業が環境問題や社会課題に対して真剣に取り組んでいるという強いコミットメントを示すことになります。
これにより、「環境配慮」や「倫理的であること」が新たな購買決定要因となり、他社との明確な差別化を図る強力な武器となります。これは、企業のブランドイメージを向上させ、市場での選択力を高めることに直結します。
3. 顧客エンゲージメントの強化
DPPを通じて提供される詳細な情報は、消費者が製品の背後にあるストーリーや製造プロセスを知る機会を与え、ブランドに対する愛着やロイヤルティを育みます。
企業はDPPをプラットフォームとして活用し、製品のメンテナンスサービス、保証延長、限定イベントへの招待など、特別な顧客特典を提供することで、顧客とのエンゲージメントをさらに強化できます。スイスの高級時計メーカーH. Moser & Cie.は、DPPとNFTを組み合わせることで、メタバース上の製品発表会やイベント参加権を提供し、顧客エンゲージメントを強化する事例を示しています。
4. グローバル市場におけるブランド優位性の確立:
EUのDPP規制はグローバルスタンダードとなる可能性が高く、早期に対応することで、日本企業は国際市場におけるブランド優位性を確立できます。
DPP対応は、単なる規制遵守を超え、企業のサステナビリティ高度化と企業価値向上の出発点となる戦略的投資と捉えるべきです。
まとめ
デジタルプロダクトパスポート(DPP)による情報開示は、消費者の製品選択に大きな影響を与え、企業が消費者からの信頼を獲得し、ブランド価値を向上させるための戦略的意義を持ちます。
情報の非対称性を解消し、エシカル消費を促進することで、消費者はより情報に基づいた購買行動が可能になります。
企業は、透明性の高い情報開示を通じてサステナビリティへのコミットメントを明確にし、顧客エンゲージメントを強化することで、ブランドイメージを向上させ、グローバル市場における競争優位性を確立できるでしょう。
DPPは、企業が持続可能な未来を築く上で不可欠な、消費者との新たな関係性を構築する鍵となります。
今回はDPPによる消費者との信頼構築とブランド価値向上について解説しました。
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参考資料
デジタル製品パスポート(DPP)とは?事業者が知るべき全体像と義務
https://alca-lca.com/magazine/standards-regulation/dpp-overview
KPMGコンサルティング「デジタル製品パスポートによるサステナビリティのシステム化」
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/11/eu-regulation-dpp.html
トレードログ「DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?サーキュラーエコノミーを実現させる欧州発の新ルールについて解説!」
https://trade-log.io/column/3143