はじめに

前節では、デジタルプロダクトパスポート(DPP)導入におけるデータ収集と管理の重要性について解説しました。

第4章:DPP導入に向けた準備と課題

4-1:データ収集と管理の重要性


しかし、DPPの真価を発揮するためには、収集したデータを効率的に管理し、サプライチェーン全体で連携させるためのITシステム構築が不可欠です。

現代のサプライチェーンは複雑であり、多様な企業が関与しているため、システム構築とサプライチェーン連携には多くの課題が伴います。

本記事では、DPP対応のためのITシステム構築、既存システムとの統合、そして複雑なサプライチェーン全体でのデータ連携における具体的な課題と、それらを克服するための解決策について、ビジネスパーソン向けに分かりやすく解説します。

DPP対応のためのシステム構築における課題

DPPの導入は、企業の情報システムに大きな変革を求めます。既存のシステム環境をDPP要件に適合させるためには、以下のような課題に直面する可能性があります。

1. 膨大な情報のデジタル化と一元管理

DPPで求められる製品ライフサイクル全体にわたる情報は、これまで紙媒体や部門ごとのシステムで分散管理されていたり、そもそもデジタル化されていなかったりするケースが多くあります。

これらの膨大な情報をデジタル形式で収集し、一元的に管理できるシステム基盤を構築するには、相応の投資と専門知識が必要です。

2. 既存システムとの統合と連携:

多くの企業は、PLM(製品ライフサイクル管理)、ERP(企業資源計画)、SCM(サプライチェーン管理)など、複数の基幹システムを運用しています。DPPシステムはこれらの既存システムとシームレスに連携し、製品情報をリアルタイムで統合・更新できる必要があります。

しかし、システム間のデータフォーマットの不統一や、レガシーシステムとの互換性の問題が、統合の大きな障壁となることがあります。

3. DPPフォーマットへの準拠と更新:

DPPで開示されるデータは、EU規制に基づく特定のフォーマットに準拠する必要があります。企業は、自社のデータをこのフォーマットに合わせて変換し、DPPシステムに提供できる仕組みを構築しなければなりません。

製品のライフサイクルを通じて情報が更新されるたびに、DPPデータも適切に更新・保守できる機能が求められます。

4. セキュリティとガバナンスの確保:

DPPには、製品の組成や製造プロセスに関する機密性の高い情報が含まれるため、高い情報セキュリティが要求されます。

アクセス権限管理、サイバーセキュリティ対策、ログ管理など、情報保護の仕組みを組み込む必要があります。また、DPPデータの正確性とトレーサビリティを担保するための社内ルール整備も不可欠です。

複雑なサプライチェーン連携の課題と解決策

DPPは、自社内だけでなく、サプライチェーン全体の企業間での情報連携を前提としています。この複雑な連携を実現するには、以下のような課題と解決策が考えられます。

1. サプライヤーからの情報収集の困難さ

DPPに必要な情報の多くは、部品・原材料を供給するサプライヤーから提供される必要があります。しかし、サプライヤー側のDPP対応の遅れ、企業秘密を理由とした情報開示への抵抗、あるいは情報フォーマットの不統一などが、情報収集の大きな障壁となります。

解決策:サプライヤーに対してDPPの重要性を説明し、情報提供のメリット(EU市場アクセス確保、競争力強化など)を明確に伝えることが重要です。また、情報開示を促すためのインセンティブ(補助金、評価制度など)や、中小サプライヤー向けの支援プログラムも有効です。

2. データ標準化と相互運用性:

サプライチェーン全体でDPPデータを円滑に共有するためには、統一されたデータ形式と、システム間の相互運用性が必要です。

解決策:GS1 Japanのような国際標準化機関が推進するGTIN(Global Trade Item Number)やGS1 Digital Link URI方式など、オープンな標準に基づいたデータ連携の仕組みを導入することが推奨されます。これにより、異なるシステム間でもDPPデータを容易に交換できるようになります。

3. 外部連携基盤の活用

サプライチェーン全体の情報統合を効率的に行うためには、企業間データ連携を支援する外部連携基盤(データスペース)の活用が有効です。

解決策:欧州では自動車業界の「Catena-X」や化学業界の「Chem-X」などが先行しており、日本国内でも「ウラノス・エコシステム」の下でデータスペースの社会実装が進められています。これらのプラットフォームを通じて、信頼性の高いデータ取得体制を構築できます。

まとめ

デジタルプロダクトパスポート(DPP)の導入には、膨大な情報のデジタル化、既存システムとの統合、DPPフォーマットへの準拠、セキュリティ確保といったシステム構築上の課題に加え、サプライヤーからの情報収集、データ標準化、サプライチェーン全体でのデータ連携といった複雑な課題が伴います。

これらの課題を克服するためには、企業は戦略的なIT投資を行い、部門横断的な連携を強化し、サプライヤーとの協働を促進するとともに、データスペースなどの外部連携基盤を積極的に活用する必要があります。

DPP対応は単なるシステムの再整備ではなく、企業の事業基盤を高度化し、競争力を強化する戦略的投資と捉えるべきです。

今回はDPP対応のためのシステム構築とサプライチェーン連携の課題について解説しました。次節では、DPPに関するEUの法的要件と技術標準への準拠に向けた企業が取るべき対応策について説明します。


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参考資料

デジタル製品パスポート(DPP)とは?事業者が知るべき全体像と義務
https://alca-lca.com/magazine/standards-regulation/dpp-overview

一般財団法人流通システム開発センター「Digital Product Passport (デジタル製品パスポート)」
https://www.gs1jp.org/standard/industry/dpp/

KPMGコンサルティング「デジタル製品パスポートによるサステナビリティのシステム化」
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/11/eu-regulation-dpp.html

三菱総合研究所「CE実現に不可欠な情報連携体制、“使える”デジタル製品パスポートとは?」
https://www.mri.co.jp/knowledge/opinion/2025/202512_3.html