はじめに

デジタルプロダクトパスポート(DPP)の導入は、企業に新たなデータ収集・管理・連携の課題を突きつけますが、それと同時に、DPPに関するEUの厳格な法的要件と技術標準への準拠も求められます。

これらの要件は、製品の信頼性、データの安全性、そしてサプライチェーン全体の公正性を確保するために不可欠です。

データ保護、サイバーセキュリティ、そして相互運用可能な技術標準への対応は、DPPを効果的に機能させる上で避けて通れない課題となります。

本記事では、DPPに関するEUの法的・技術的要件、そして企業がこれらの要件に準拠するために取るべき具体的な対応策について、ビジネスパーソン向けに分かりやすく解説します。

DPPに関するEUの法的要件

DPPは、EUの「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」によって導入が義務付けられており、この規則はDPPに求められる法的要件の枠組みを定めています。特に重要な法的要件は以下の通りです。

1. データ保護とプライバシー

DPPには、製品のライフサイクル全体にわたる詳細な情報が含まれるため、個人情報保護規則(GDPR)など、EUの厳格なデータ保護法規への準拠が求められます。

機密性の高い企業情報や個人情報が適切に保護され、不正アクセスや漏洩のリスクが最小限に抑えられる必要があります。

アクセス権限管理を徹底し、正当な利害関係者のみが必要な情報にアクセスできるようにする仕組みが不可欠です。

2. データ責任の明確化

DPPの実効性を高めるためには、データ責任の所在を明確にすることが重要です。行政がシステム全体の監督責任を担い、業界団体が運用を主導し、企業がシステムへのデータ登録責任を負うという構造化により、適切な責任分担が図られます。

企業は、自社が提供するDPPデータの正確性、完全性、適時性に対して責任を負うことになります。

3. 市場監視とコンプライアンス

EUは、DPPの情報を集約するレジストリと公開ポータルを設置し、製品比較や市場監視の基盤を整備する予定です。

企業は、ESPRのエコデザイン要件に適合していることをDPPを通じて証明する必要があり、不適合な製品はEU市場での販売が禁止される可能性があります。

DPPに関する技術標準への準拠

DPPは、製品のライフサイクル全体にわたる情報が、サプライチェーン上の異なるシステム間で円滑に共有されることを前提としています。そのため、特定の技術標準への準拠が不可欠です。

1. 永続的で一意の製品識別子

ESPRのArticle 10では、DPPが「データキャリアを介して、永続的で一意の製品識別子に接続されなければならない」と規定されています。

これには、GS1が提供するGTIN(Global Trade Item Number)のようなグローバルで一意の識別コードが有効です。

2. 相互運用可能なデータフォーマット

DPPに含まれる全てのデータは、「相互運用可能なフォーマットで開発されたオープンな標準に基づかなければならない」とESPRで定められています。

異なるシステムやプラットフォーム間でのデータ交換を可能にするためには、標準化されたデータフォーマットが不可欠です。

GS1 Digital Link URI方式のように、消費者がスマートフォンで読み取ってウェブ上の情報にアクセスできるような標準が推奨されています。

3. デジタル基盤の整備

DPPは、常にネットワークに接続できる必要があり、その接続を支えるITシステムが「DPPシステム」となります。

製品とクラウド上の情報(デジタルツイン)を一致させ、正確なデータ管理を行うためには、デジタル基盤とデータ基盤の整備が求められます。

欧州では、Manufacturing-XやCatena-Xといったデータスペースの構築が進められており、DPPはこれらのデータ連携の仕組みを活用することが推奨されています。

企業が取るべき対応策

DPPの法的・技術的要件に準拠するためには、企業は以下の具体的な対応策を講じる必要があります。

1. DPP戦略チームの設置

社内でDPP導入を主導するリーダーや専門チームを選出し、規制の更新や技術動向に遅れず対応できる体制を構築します。

2. 現状分析とギャップ分析

自社が保有する製品情報、既存システム、サプライチェーンにおけるデータ連携の現状を詳細に分析し、DPP要件とのギャップを特定します。

3. データガバナンスとセキュリティ体制の強化

DPPデータの収集、保管、利用に関する明確なポリシーを策定し、アクセス権限管理、サイバーセキュリティ対策を強化します。

機密情報保護とデータプライバシーの確保を最優先事項とします。

4. データ標準化とシステム統合

国際的なDPPデータ標準の動向を注視し、自社のデータフォーマットをこれに準拠させます。

既存のPLM、ERP、PIMなどのシステムをDPPシステムと統合し、シームレスなデータ連携を実現します。

5. サプライヤーとの協働と情報連携基盤の構築

サプライヤーに対し、DPPの重要性を説明し、情報提供を促します。標準化されたデータ形式での情報共有を義務付け、必要に応じてサプライヤーのデジタル化を支援します。

データスペースなどの外部連携基盤を積極的に活用し、サプライチェーン全体の情報連携を構築します。

6. パイロットプロジェクトの実施

DPPの全面導入に先立ち、特定の製品グループでパイロットプロジェクトを実施し、課題を特定し、解決策を検証します。

まとめ

デジタルプロダクトパスポート(DPP)の導入は、EUの厳格な法的要件と技術標準への準拠を企業に求めます。

データ保護、データ責任の明確化、そして永続的で一意の製品識別子や相互運用可能なデータフォーマットといった技術標準への対応は、DPPを効果的に機能させる上で不可欠です。

企業は、DPP戦略チームの設置、データガバナンスとセキュリティ体制の強化、データ標準化とシステム統合、サプライヤーとの協働を通じて、これらの課題を克服し、DPP時代における競争優位性を確立することができるでしょう。

DPPへの対応は、単なる規制遵守ではなく、企業の持続可能な成長とイノベーションを推進する戦略的機会と捉えるべきです。

今回はDPPに関する法的・技術的要件への対応について解説しました。


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参考資料

デジタル製品パスポート(DPP)とは?事業者が知るべき全体像と義務
https://alca-lca.com/magazine/standards-regulation/dpp-overview

一般財団法人流通システム開発センター「Digital Product Passport (デジタル製品パスポート)」
https://www.gs1jp.org/standard/industry/dpp/

KPMGコンサルティング「デジタル製品パスポートによるサステナビリティのシステム化」
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/11/eu-regulation-dpp.html