はじめに
これまでの章では、GHGプロトコルの基本的な概念、目的、原則、そしてScope1、2、3という排出量の区分について解説しました。
2-3:Scope3:サプライチェーン全体のその他の間接排出
これらの知識は、実際に企業のGHG排出量を算定し、報告する上で不可欠な基礎となります。
本記事では、GHGプロトコルに基づき、企業が温室効果ガス排出量を算定し、報告するまでの一連のプロセスを、初心者にも分かりやすいように5つの基本的なステップに分けて解説します。
この実務的な流れを理解することで、自社の排出量管理を効果的に進めることができるでしょう。
GHG排出量算定・報告の基本的な5つのステップ
GHGプロトコルに準拠した排出量算定・報告は、以下の5つのステップで構成されます。これらのステップを順に進めることで、信頼性の高い排出量インベントリを作成し、適切な情報開示へと繋げることが可能です。
| ステップ | 概要 |
|---|---|
| ① 算定対象範囲の設定 | どの組織、どの排出源、どの期間の排出量を算定するのかを明確に定義します。 |
| ② 活動量のデータ収集 | 定義した排出源から発生するGHGの量を計算するための基礎データ(活動量)を収集します。 |
| ③ 排出原単位の選定 | 収集した活動量に適用する適切な排出原単位(排出係数)を選定します。 |
| ④ 排出量の算定 | 活動量と排出原単位を用いて、GHG排出量を計算します。 |
| ⑤ 報告 | 算定した排出量データをまとめ、社内外のステークホルダーに開示します。 |
ステップ1:算定対象範囲の設定
GHG排出量算定の最初のステップは、算定の「境界」を明確に設定することです。これにより、どの排出量を自社の責任として算定・報告するのかを定義します。
組織的境界:算定対象とする組織の範囲を決定します。具体的には、連結子会社を含めるか、特定の事業所のみとするかなどを定めます。GHGプロトコルでは、財務支配権アプローチ、経営支配権アプローチ、株式持分アプローチのいずれかを選択することを推奨しています。
事業的境界:算定対象とするGHGの種類(CO2、CH4、N2Oなど7種類のGHG)、およびScope1、Scope2、Scope3のどの範囲まで算定するかを決定します。特にScope3は15のカテゴリがあるため、自社の事業に関連性の高いカテゴリを特定することが重要です。
時間的境界:算定対象とする期間(会計年度など)を定めます。通常は1年間を対象としますが、比較可能性を確保するため、継続的に同じ期間で算定することが求められます。
このステップで設定した境界は、その後のデータ収集や算定の基盤となるため、慎重に検討し、明確に文書化することが重要です。
ステップ2:活動量のデータ収集
算定対象範囲が設定されたら、次に各排出源から発生するGHGの量を計算するための基礎データである「活動量」を収集します。活動量とは、GHG排出に繋がる具体的な活動の量を示すデータです。
| Scope | 活動量の例 |
|---|---|
| Scope1 | 燃料使用量(ガソリン、軽油、天然ガス、重油などの消費量)、冷媒の補充量、工業プロセスにおける原材料投入量など。 |
| Scope2 | 購入した電力使用量、購入した熱・蒸気・冷熱の使用量など。 |
| Scope3 | 購入した製品・サービスの金額、出張の移動距離、従業員の通勤距離、販売した製品の販売量など。 |
データ収集においては、可能な限り正確な一次データ(メーターの読み取り、購入記録、公共料金の請求書など)を用いることが推奨されます。
データが不足している場合は、二次データ(業界平均値、文献値など)で補完することも検討しますが、その際はデータの品質と代表性を評価することが重要です。
ステップ3:排出原単位の選定
収集した活動量に適用する「排出原単位(排出係数)」を選定します。排出原単位とは、特定の活動量あたりのGHG排出量を示す数値です。
排出原単位の例:
ガソリン1リットルあたりのCO2排出量
電力1kWhあたりのCO2排出量
製品1kgあたりの製造に伴うCO2排出量
排出原単位は、国や地域、燃料の種類、発電方法などによって異なります。
信頼性の高い排出原単位を選定するためには、環境省やGHGプロトコルが提供する公式データベース、または国際的に認められた機関が公表しているデータなどを参照することが重要です。
特にScope2の電力排出原単位には、ロケーション基準とマーケット基準の2種類があるため、それぞれの目的に応じて適切に選定する必要があります。
ステップ4:排出量の算定
活動量と排出原単位が揃ったら、以下の基本的な計算式を用いてGHG排出量を算定します。
GHG排出量=活動量×排出原単位算定された各GHG(CO2、CH4、N2Oなど)の排出量は、それぞれが地球温暖化に与える影響度を示す「地球温暖化係数(GWP)」を用いて、共通の単位である二酸化炭素換算量(CO2e)に換算して合計します。
CO2e排出量=∑(各GHG排出量×各GHGのGWP)
このステップでは、計算ミスがないよう細心の注意を払い、算定プロセスを明確に記録しておくことが重要です。
ステップ5:報告
算定されたGHG排出量は、GHGプロトコルの5つの基本原則(関連性、完全性、一貫性、透明性、正確性)に基づいて報告書にまとめられます。
報告書には、算定結果だけでなく、算定対象範囲、算定方法、使用した排出原単位、データ収集の課題、排出削減目標、削減に向けた取り組みなども含めることが推奨されます。
報告書は、サステナビリティ報告書、統合報告書、環境報告書などの形で社内外に開示されます。
CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)のような国際的な情報開示プラットフォームを通じて報告することも一般的です。
必要に応じて、第三者機関による検証を受けることで、報告の信頼性をさらに高めることができます。透明性の高い情報開示は、ステークホルダーからの信頼獲得、企業価値向上、そして気候変動対策への貢献を示す上で不可欠です。
まとめ
GHG排出量の算定と報告は、企業が気候変動対策に取り組む上での重要な実務プロセスです。
GHGプロトコルは、このプロセスを「①算定対象範囲の設定」「②活動量のデータ収集」「③排出原単位の選定」「④排出量の算定」「⑤報告」という5つの基本的なステップに体系化しています。
これらのステップを正確かつ一貫性をもって実行することで、企業は自社のGHG排出量を信頼性高く把握し、効果的な削減戦略を策定し、透明性をもって情報開示を行うことが可能になります。
今回はGHG排出量算定の基本的な5つのステップについて解説しました。
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参考資料
GHG Protocol. Standards & Guidance.
https://ghgprotocol.org/standards-guidance
GHG Protocol. Corporate Standard.
https://ghgprotocol.org/corporate-standard
GHG Protocol. The Greenhouse Gas Protocol: A Corporate Accounting and Reporting Standard (Revised Edition).
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/standards/ghg-protocol-revised.pdf
GHG Protocol. Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard.
https://ghgprotocol.org/standards/scope-3-standard