はじめに
これまでの記事(4-1、4-2)では、GHGプロトコルの基準改訂が進められている背景と、それが企業のGHG排出量算定実務に与える具体的な影響について解説しました。
4-1:なぜGHGプロトコルが改訂されるのか?現在進められている基準改訂の概要
4-2:基準改訂が企業の算定実務に与える影響
気候変動を取り巻く環境が急速に変化し、GHGプロトコルもそれに合わせて進化していく中で、企業の環境担当者には、これらの変化に迅速かつ適切に対応することが強く求められています。
本記事では、GHGプロトコルの改正を見据え、企業の環境担当者が今から着手すべき具体的な対応策について、最新動向の注視、社内体制の準備、データ管理の高度化、サプライヤーとの連携強化といった観点から提案します。
GHGプロトコル基準改訂の動きと企業への影響
GHGプロトコルの基準改訂は、Scope2の算定方法の見直し、土地利用・炭素除去・バイオジェニック排出の取り扱い、Scope3算定の精緻化など、多岐にわたる論点を含んでいます。
これらの変更は、企業のGHG排出量算定結果に影響を与えるだけでなく、排出削減目標の設定、サプライチェーン戦略、情報開示のあり方にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
このような状況下で、企業の環境担当者は、単に既存の基準に沿って算定・報告を行うだけでなく、将来を見据えた proactive な対応が不可欠となります。
環境担当者に求められる具体的な対応
GHGプロトコルの基準改訂という大きな変化に対応するため、企業の環境担当者には以下の具体的な対応が求められます。
1. 最新動向の継続的な把握と情報収集
GHGプロトコルの改訂プロセスは現在進行中であり、パブリックコメントの募集や新たなガイダンスの公表が随時行われています。環境担当者は、これらの最新情報を継続的に収集し、自社への影響を早期に評価することが最も基本的な対応です。
| 対応内容 | 具体的な行動 |
|---|---|
| 公式情報の確認 | GHGプロトコルの公式ウェブサイトを定期的に確認し、公開される文書(ドラフト、Q&A、ウェビナーなど)を詳細に読み込む。 |
| 専門家ネットワーク | 気候変動やサステナビリティに関する専門家、コンサルタント、業界団体などとのネットワークを構築し、情報交換を行う。 |
| 他社事例の学習 | 同業他社や先進企業のGHG排出量算定・報告の取り組み、特に改訂への対応状況を参考に、自社の戦略を検討する。 |
2. 社内体制の強化と人材育成
新しい基準に対応するためには、社内のGHG排出量算定・報告体制を強化し、担当者の知識とスキルを向上させることが不可欠です。
| 対応内容 | 具体的な行動 |
|---|---|
| 担当者の専門性向上 | GHGプロトコルの改訂内容に関する研修やセミナーに積極的に参加し、算定・報告に関する専門知識を深める。 |
| 社内連携の強化 | 環境部門だけでなく、経理、調達、生産、IT、IRなど、GHG排出量に関連する他部署との連携を強化し、情報共有体制を構築する。 |
| 責任体制の明確化 | GHG排出量算定・報告における各部署の役割と責任を明確にし、スムーズな業務遂行を可能にする。 |
3. データ管理の高度化とシステム導入
| 対応内容 | 具体的な行動 |
|---|---|
| データ収集体制の見直し | 現在のデータ収集プロセスを評価し、一次データの収集率向上、データ品質の確保、収集頻度の最適化などを図る。 |
| データ管理システムの導入 | GHG排出量算定・管理を効率化するための専用システムやツール(例:クラウドベースのGHG排出量管理プラットフォーム)の導入を検討する。これにより、データの自動収集、算定、分析、報告が可能となり、手作業によるミスを削減できる。 |
| データの粒度と精度向上 | 特にScope2のマーケット基準やScope3の各カテゴリにおいて、より詳細な活動量データや排出原単位の収集・管理を目指す。 |
4. サプライヤーエンゲージメントの強化
| 対応内容 | 具体的な行動 |
|---|---|
| コミュニケーションの強化 | サプライヤーに対し、GHGプロトコル改訂の重要性や自社の脱炭素目標を説明し、データ提供への理解と協力を求める。 |
| データ提供の支援 | サプライヤーがGHG排出量データを容易に提供できるよう、共通のデータフォーマットやツールを提供したり、算定に関する情報提供やトレーニングを実施したりする。 |
| 共同での削減目標設定 | サプライヤーと協力して排出削減目標を設定し、共同で削減策を検討・実施することで、サプライチェーン全体の脱炭素化を推進する。 |
5. シナリオ分析と戦略の見直し
| 対応内容 | 具体的な行動 |
|---|---|
| 影響度分析 | 改訂される可能性のある論点(例:Scope2のマーケット基準、LULUCF)が自社の排出量に与える影響をシミュレーションする。 |
| 削減目標の再評価 | シナリオ分析の結果に基づき、現在の排出削減目標(SBTiなど)が新しい基準の下でも達成可能か、あるいは見直しが必要かを評価する。 |
| 脱炭素戦略の調整 | 新しい基準や市場の動向に合わせて、再生可能エネルギー調達戦略、サプライチェーンの脱炭素化戦略、炭素除去技術の活用などを調整する。 |
まとめ
GHGプロトコルの基準改訂は、企業のGHG排出量算定・報告のあり方を大きく変える可能性を秘めています。
企業の環境担当者には、最新動向の継続的な把握、社内体制の強化と人材育成、データ管理の高度化とシステム導入、サプライヤーエンゲージメントの強化、そしてシナリオ分析と戦略の見直しといった多角的な対応が求められます。
これらの準備を今のうちから着実に進めることで、企業は変化する環境下でも信頼性の高い情報開示を継続し、持続可能な経営を実現するとともに、気候変動対策におけるリーダーシップを発揮できるでしょう。
今回は今後、企業の環境担当者に求められる対応について解説しました。
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参考資料
GHG Protocol. Standards & Guidance.
https://ghgprotocol.org/standards-guidance
GHG Protocol. Corporate Standard.
https://ghgprotocol.org/corporate-standard
GHG Protocol. The Greenhouse Gas Protocol: A Corporate Accounting and Reporting Standard (Revised Edition).
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/standards/ghg-protocol-revised.pdf
GHG Protocol. Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard.
https://ghgprotocol.org/standards/scope-3-standard
GHG Protocol. Scope 2 Guidance.
https://ghgprotocol.org/scope_2_guidance