はじめに
GX-ETSをはじめとする規制制度において、「対応を怠る=不適合(non-compliance)」となると、企業は単純なペナルティだけでは済みません。
ここでは、GX-ETSの3つの主要リスクを整理します。
不適合による制度的リスク(制度罰・信頼毀損)
「報告漏れ」や「検証不備」は制度上の不適合事項とされ、GX-ETSでは改善命令や罰金などが科される可能性があります。
また、制度的な信頼性が問われることで、企業の内部統制に疑義が生じ、ブランドイメージにも悪影響を与えかねません。
これは単なるルール違反にとどまらず、制度全体の信用失墜にもつながります 。
サプライチェーン圧力の増大(取引先からの要請厳格化)
昨今、サプライチェーンを通じた脱炭素対応が当たり前になり、国内外の調達先から排出量や検証体制を求められる機会が増えています 。
特に中小企業では2020年の7.7%から2022年には15.4%に増加しており、取引停止などの実効的な圧力も現実化しています。
不適合が発覚すると、取引先から「信頼できない」企業と見なされ、契約更新見送りや優先調達から外されるリスクが高まります。
いわゆる「サプライチェーン圧力」は、制度違反による制度的ペナルティよりも、ビジネスに直接響くダメージを与えます。
レピュテーショナルリスクと顧客離れ
制度違反は「コスト」だけの問題ではありません。
企業の評判やブランド価値は一度毀損すると回復が困難であり、結果的に顧客・投資家・従業員からの信頼を失うリスクがあります 。
たとえば、不正報告がニュースになれば、メディア報道やSNS拡散を通じて消費者の不信を招き、株価や取引条件にもネガティブな影響が生じます。
さらに欧州などでは「命名・非難(naming and shaming)」などの手段を通じ、企業排除の圧力も強まっています 。
まとめ:対応怠慢は制度的・取引的・社会的リスクを招く
リスク種類 | 想定される影響 |
---|---|
制度的リスク | 罰金・報告停止・改善命令など制度上の制裁 |
サプライチェーン圧力 | 取引停止・調達見送り・取引契約の解除 |
レピュテーショナルリスク | ブランド価値低下、顧客・投資家離れ、報道による信用喪失 |
このように、「不適合」は単なる報告ミスでは済まされず、制度的・取引的・社会的側面の三方向から重大な影響を受けることになります。
次回予告:「対応すべき具体的実務とは?」
次回の記事では、「ではどうすればGX-ETSに不適合とされず、信頼される対応になるのか?」について、実務レベルでの体制整備やプロセス策定のポイントを詳しく解説します。
具体的には、報告体制の構築、第三者検証に備える準備、社内統制の強化など、初心者にも実行しやすい対応策をご紹介します。
参考資料
内閣官房GX推進室「我が国のグリーントランスフォーメーション実現に向けて」
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2023/054/054_005.pdf
Carbon‑Direct: “GX‑ETS expected to shift into
compliance‑based system with penalties
https://www.carbon-direct.com/insights/inside-japan-s-gx-ets-carbon-market-and-its-global-climate-impact