はじめに

GX-ETSは、企業が自主的に温室効果ガス(GHG)排出量削減目標を設定し、その達成状況を報告・開示することで、排出量削減を促進することを目的とした制度です。排出量取引制度においては、温室効果ガス排出量そのものに金銭的な価値が生じます。この制度が社会に受容され、期待される効果を発揮するためには、その「信頼性」が不可欠です。

もし、企業が報告する排出量データが客観的に確認されないとしたら、どうなるでしょうか。排出量の過少報告や削減努力の偽装といった疑念が生じ、制度全体への不信感につながる可能性があります。このような状況を回避し、制度の有効性を確保するために導入されているのが「第三者検証」です。

第三者検証とは?

第三者検証とは、企業が自ら算定・報告する温室効果ガス排出量などのデータについて、その正確性や信頼性を、当該企業とは利害関係のない外部の専門機関(検証機関)が客観的な立場から確認・評価するプロセスを指します。

この「第三者」による検証は、企業が自ら報告するデータの客観性を担保し、社会からの信頼を獲得する上で極めて重要です。外部の専門家が、定められた基準やガイドラインに沿って厳正にチェックすることで、データの信頼性は飛躍的に向上します。

制度設計の視点から見る第三者検証の必要性

GX-ETSの制度設計において第三者検証が不可欠な仕組みとして位置づけられているのは、主に以下の3つの要素に集約されます。

1. 透明性の確保:見えないものを「見える化」し、信頼を築く

温室効果ガスの排出量は、可視化が困難な性質を有しています。そのため、企業が排出量や削減量を報告しても、その根拠が明確でなければ、社会的な受容を得ることは困難です。 第三者検証は、企業が算定した排出量データが、国の定めるガイドラインや国際的な基準(ISO 14064-3など)に則って正確に計算されているかを客観的に確認します。これにより、データの信頼性が担保され、その情報が公開される際の透明性が格段に高まります。

2. 公平性の担保:全ての参加者が同じ土俵で評価されるために

排出量取引制度は、排出量削減に貢献した企業が排出枠を売却し、目標達成が困難な企業が排出枠を購入することで、市場メカニズムを通じて効率的な削減を促すものです。この制度において、排出量には金銭的な価値が付与されるため、その算定・報告の正確性は市場の健全性に直結します。

もし、ある企業が不正確なデータに基づいて排出枠を過剰に取得したり、削減努力を偽って報告したりすることが許容されるならば、真摯に削減に取り組む企業が不利益を被り、市場全体の公平性が著しく損なわれてしまいます。

第三者検証は、全ての参加企業が同一の基準とプロセスで排出量データを評価されることを保証します。これにより、排出枠の割当や取引が公正に行われ、市場の健全性が維持されます。これは、制度への参加意欲を高め、より多くの企業が排出量削減に積極的に取り組むための基盤となります。

3. 説明責任の強化:企業と社会の対話を促進する

GX-ETSに参加する企業には、自社の排出量削減に向けた目標設定とその達成に向けた取り組みを推進し、その状況を社会に開示する説明責任が求められます。これは、単にデータを公表するだけでなく、なぜその目標を設定したのか、どのように達成しようとしているのか、そして結果はどうだったのかを、ステークホルダーに対して明確に説明する義務があることを意味します。

第三者検証済みの排出量データは、企業がこの説明責任を果たす上で極めて強力な根拠となります。客観的な保証が付与されることで、企業は自信を持って自社の取り組みをアピールでき、投資家や金融機関、消費者からの信頼を獲得しやすくなります。また、目標が未達だった場合でも、検証済みのデータに基づいてその原因を分析し、改善策を説明することで、誠実な企業姿勢を示すことが可能となります。

GX-ETSにおける第三者検証の具体的な位置づけ

GX-ETSでは、この第三者検証が制度の初期段階から極めて重視されています。現在試行期間であるフェーズ1(2023年度~2025年度)においても、一定規模以上の排出量がある企業には第三者検証が義務付けられています。そして、2026年度からの本格稼働(フェーズ2)では、法的に制度の対象となる企業に確認業務が必須となる予定です。

特に、排出量削減努力によって生み出される「超過削減枠」を創出する企業には、より高い水準の「合理的保証」という検証が求められます。これは、排出量情報の信頼度を一層向上させ、その価値を確かなものにするための重要な仕組みです。

まとめ

第三者検証は、GX-ETSが単なる排出量報告制度に留まらず、実効性のある排出量削減を促し、日本のカーボンニュートラル達成に貢献するための「信頼の要」として機能します。透明性、公平性、そして説明責任という3つの柱を強固にすることで、制度全体の健全性が保たれ、企業および社会がGX-ETSに安心して参画できる環境が整備されます。

次回は、この重要な第三者検証が具体的にどのようなプロセスで行われるのか、その具体的なステップについて詳しく解説してまいります。

当社は、経済産業省のGX-ETSにおける第三者検証機関として登録されており、独立した第三者検証機関としてGX-ETSにおける排出量実績報告をサポートいたします。

GX-ETS第三者検証サービスの詳細はこちらをご覧ください。

また、GX-ETSへの対応でお困りの際は、当社までお気軽にご連絡ください。

お問い合わせ

参考資料

経済産業省「GXリーグ公式サイト:排出量取引制度(GX-ETS)」
https://gx-league.go.jp/action/gxets/

内閣官房GX実行会議資料「GX実行に向けた基本方針」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/index.html