はじめに

前回はGX-ETS(Green Transformation Emission Trading Scheme:排出量取引制度)が温対法、ISO 14064、SBTといった既存の気候変動関連制度とどのように連携し、その整合性がなぜ重要なのかについて解説いたしました。制度間のつながりを理解し、効率的な対応を図ることが、脱炭素経営推進の鍵となることをご理解いただけたことと存じます。

今回は、GX-ETSへの具体的な対応を考える上で、企業が最初に直面する実務的な課題の一つ、「排出量データの収集・算定」に焦点を当ててまいります。何を、どこまで把握し、どのように算定すれば良いのか、そのデータ収集方法や範囲設定、そして精度確保の課題を整理し、初心者の方や企業の担当者の皆様がスムーズにこのプロセスを進めるためのポイントを解説いたします。

GX-排出量算定の基本:活動量と排出係数

温室効果ガス(GHG)排出量の算定は、基本的に以下のシンプルな式で表されます。

排出量=活動量×排出係数

この式を理解することが、排出量データ収集・算定の第一歩となります


1. 活動量(Activity Data)とは?

活動量とは、企業活動に伴って温室効果ガスが発生する源となる具体的な活動の量を指します。例えば、燃料の使用量(ガソリン、重油、都市ガスなど)、電力の消費量、廃棄物の処理量、製品の生産量などがこれに該当します。

正確な排出量を算定するためには、この活動量データをいかに正確かつ網羅的に収集するかが極めて重要です。データ収集の主な方法としては、以下のようなものが挙げられます。

請求書・領収書 電力会社やガス会社からの請求書、燃料購入時の領収書など。
メーター/計量器記録 電力メーター、ガスメーター、燃料タンクの残量記録など。なお、計量器等は、正確な数値を計測できる特定計量器である必要があります。
社内システム 生産管理システム、会計システム、車両運行記録など。なお、社内システムを用いる場合は、上記の請求書や特定計量器等による数値の信頼性を担保する必要があります。

2. 排出係数(Emission Factor)とは?

排出係数とは、特定の活動量あたりに排出される温室効果ガスの量を表す数値です。例えば、「1リットルのガソリンを燃焼させたときに排出されるCO2の量」や、「1kWhの電力を消費したときに排出されるCO2の量」などがこれに当たります。

排出係数には、国が公表している標準的な係数(例:環境省の排出係数データベース)、電力会社が公表している固有の係数、あるいはサプライヤーが提供する製品ごとの係数など、様々な種類があります。

適切な排出係数を選択することは、算定結果の信頼性を左右します。一般的には、より実態に近い、信頼性の高い係数(例:自社固有のデータや、最新の公表値)を用いることが推奨されます。排出係数は定期的に見直されることもあるため、常に最新の情報を確認し、適用することが重要です。

精度確保の課題と重要性

排出量データの収集・算定において、最も重要なのはその「精度」です。データの欠損、不整合、算定ミスは、排出量報告書の信頼性を損ない、第三者検証のプロセスにおいて指摘を受ける原因となります。

課題:

データ収集の網羅性 全ての排出源を漏れなく特定し、関連する活動量データを収集すること。
データ品質の確保 収集したデータが正確であり、信頼できる情報源に基づいていること。
算定方法の一貫性 複数の事業所や期間にわたって、一貫した算定方法を適用すること。
証拠書類の整備 算定の根拠となる活動量データや排出係数に関する証拠書類を適切に保管すること。

重要性

正確な排出量データは、GX-ETSにおける排出枠の適切な管理、削減目標の達成状況の正確な評価、そして企業が社会に対して果たすべき説明責任の基盤となります。

データの精度が低いと、誤った削減戦略を立ててしまったり、第三者検証で不適合と判断されたりするリスクがあります。逆に、高精度なデータは、企業の脱炭素への真摯な取り組みを裏付け、企業価値向上にも繋がります。

まとめ

GX-ETSへの対応における排出量データの収集・算定は、活動量と排出係数の正確な把握、そして適切なスコープ設定が鍵となります。これらのプロセスにおける課題を理解し、精度を確保するための体制を構築することが、制度対応の第一歩であり、最も重要な基盤となります。

次回は、この排出量データの収集・算定を円滑に進めるために不可欠な「社内体制の整備と情報連携」について、部門横断的な取り組みの重要性を中心に解説してまいります。GX-ETSへの対応でお困りの際は、経済産業省のGX-ETSにおける第三者検証機関として登録されている弊社が、皆様の制度対応を強力にサポートいたします。次回以降の解説にご期待ください。

GX-ETSへの対応でお困りの際は、当社までお気軽にご連絡ください。



当社は、経済産業省のGX-ETSにおける第三者検証機関として登録されており、独立した第三者検証機関としてGX-ETSにおける排出量実績報告をサポートいたします。

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GX-ETS 第三者検証サービス

お客様が算定・報告されたGHG排出量データが、GX-ETSのガイドラインや国際基準(ISO 14064-3など)に準拠しているかを客観的に評価・確認します。


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参考資料

経済産業省「GXリーグ公式サイト:排出量取引制度(GX-ETS)」
https://gx-league.go.jp/action/gxets/

内閣官房GX実行会議資料「GX実行に向けた基本方針」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/index.html