はじめに
前回の記事では、LCA(ライフサイクルアセスメント)のデータ品質がいかに重要であるか、そしてその信頼性を高めるための「ギャップ分析」や「検証」のテクニックについて解説しました。
LCAの評価プロセスは複雑であり、膨大なデータを扱うため、手作業で行うには限界があります。
そこで不可欠となるのが、LCAを効率的かつ正確に実施するための「LCAソフトウェア・ツール」です。
本記事では、LCAの導入を検討している初心者や企業担当者向けに、主要なLCAソフトウェアであるMiLCA、SimaPro、GaBiの特徴、コスト、サポート体制を比較し、自社に最適なツールを選定するためのポイントを解説します。
LCAソフトウェア・ツールの役割
LCAソフトウェアは、ライフサイクルインベントリ(LCI)データの入力・管理、環境影響評価(LCIA)の計算、結果の可視化、レポート作成など、LCAの全プロセスを支援するツールです。
これにより、複雑な計算を自動化し、データの整合性を保ち、分析の効率を大幅に向上させることができます。
主要LCAソフトウェア・ツールの比較
ここでは、LCA分野で広く利用されている3つの主要ツール、MiLCA、SimaPro、GaBiについて比較します。
1. MiLCA(ミルカ)
特徴 | 日本の株式会社LCAエキスパートセンターが提供する国産LCAソフトウェアです。
日本の産業構造やデータ特性に合わせたLCIデータベース(IDEAなど)が標準で搭載されており、日本国内の製品・サービスのLCAに強みを持っています。 直感的な操作性と日本語でのサポートが充実しているため、LCA初心者や日本の企業担当者にとって導入しやすいツールです。 カーボンフットプリント(CFP)算定にも特化しており、CFPマーク制度への対応も考慮されています。 |
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コスト | 一般企業 800,000円~
中小企業等 400,000円~ ※ライセンスまでの料金(AIST-IDEA版) |
サポート体制 | 日本語での技術サポートやトレーニングが充実しており、国内のLCA専門家との連携も容易です。 |
参考資料 | LCAソフトウェア MiLCA |
2. SimaPro(シマプロ)
特徴 | オランダのPRé Sustainability社が開発した、世界的に最も広く利用されているLCAソフトウェアの一つです。
Ecoinventデータベースをはじめとする豊富な国際LCIデータベースをサポートしており、グローバルなサプライチェーンを持つ企業や、国際的な比較分析を行う場合に非常に強力です。 柔軟なモデリング機能と高度な分析機能を持ち、複雑なLCAシナリオにも対応できます。 ユーザーコミュニティが大きく、情報交換や学習リソースが豊富です。 |
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コスト | パワーユーザー 1,280,000円~
エキスパートユーザー 1,000,000円~ ※ecoinvent付、シングルユーザーの年間費用 |
サポート体制 | 世界中にパートナー企業があり、各国で技術サポートやトレーニングが提供されています。日本国内にも代理店があります。 |
参考資料 | SimaPro - LCAで持続可能な未来を共に | TCO2株式会社 |
3. GaBi(ガビ)
特徴 | ドイツのSphera社(旧thinkstep社)が開発した、LCAソフトウェアとデータベースが統合されたソリューションです。Ganzheitliche Bilanzierung(ドイツ語で包括的なバランス)からGaBiと呼ばれます。
特に自動車、化学、電子機器などの産業界で長年の実績があり、詳細なプロセスモデリングや特定の産業分野に特化したデータが充実しています。 GaBi独自の高品質なLCIデータベースが統合されており、特定の産業における詳細な分析に適しています。 複雑なサプライチェーンのモデリングや、製品の環境性能を最適化するためのシミュレーション機能が強力です。 |
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コスト | 3つのツールの中では最も高価な部類に入ることが多く、大規模な企業や特定の産業分野での利用が多い傾向にあります。具体的な価格は以下のURLから問い合わせる必要があります。 |
サポート体制 | グローバルなサポート体制が整っており、専門的なコンサルティングサービスと連携して利用されることも多いです。 |
参考資料 | Life Cycle Assessment Software and Data | Sphera (GaBi) |
LCAソフトウェア選定のポイント
自社に最適なLCAソフトウェアを選定するためには、以下の点を考慮しましょう。
1. LCAの目的とスコープ
目的によって、必要なデータベースの種類や機能が異なるため、対象とする製品・サービス、対象市場が国内か海外か、LCA/CFP算定が主目的か、製品設計改善まで踏み込むのか、等を整理します。
2. 利用可能なデータベースの適合性
評価対象の製品や原材料、地域に合ったLCIデータが豊富に利用できるかを確認します。特に、自社のサプライチェーンの特性を反映できるデータベースが重要です。
3. コスト(初期費用、年間ライセンス料、データベース費用)
予算に合わせて、ソフトウェア本体のライセンス費用だけでなく、必要なデータベースの費用、トレーニング費用、サポート費用なども含めて検討します。
4. 操作性・学習コスト
LCAの専門知識を持つ担当者がいるか、LCA初心者でも使いこなせるかなど、自社のリソースと照らし合わせて操作のしやすさや学習コストを評価します。無料トライアルやデモを活用するのも良いでしょう。
5. サポート体制とコンサルティング連携
日本語でのサポートが必要か、技術的な質問に迅速に対応してもらえるか、LCAの専門家によるコンサルティングサービスと連携できるかなどを確認します。
6. 機能・拡張性
将来的にLCAの適用範囲を広げたい場合や、より複雑な分析を行いたい場合に、ソフトウェアがそのニーズに対応できる拡張性を持っているかを確認します。
まとめと次のステップ
LCAソフトウェアは、LCAを効率的かつ正確に実施するための強力なツールです。
MiLCA、SimaPro、GaBiはそれぞれ異なる強みを持つため、自社のLCAの目的、予算、リソース、そして評価対象の特性に合わせて最適なツールを選定することが重要です。
次回は、LCAの専門知識や経験が不足している場合に頼りになる「コンサルタント」の活用方法や、LCA結果の信頼性をさらに高める「第三者認証」のメリットについて詳しく解説します。
LCA導入の“肝”となる外部リソースを理解し、貴社のLCA推進を加速させましょう。
参考文献
株式会社LCAエキスパートセンター,MiLCA
LCAソフトウェア MiLCA
TCO2株式会社,Simapro
SimaPro - LCAで持続可能な未来を共に | TCO2株式会社
GaBi, Sphera Solutions, Inc.
Life Cycle Assessment Software and Data | Sphera (GaBi)