はじめに

前節では、デジタルプロダクトパスポート(DPP)が「製品のデジタル履歴書」として、そのライフサイクル全体にわたる情報を記録し、共有する重要な役割を担うことを解説しました。

第2章:デジタルプロダクトパスポート(DPP)の基礎

2-1:DPPとは何か?その定義と役割


では、具体的にDPPにはどのような情報が記録され、開示されることが求められるのでしょうか。

ESPR(持続可能な製品のためのエコデザイン規則)は、製品の持続可能性に関する多岐にわたる情報要素の開示を義務付けており、これは製品の設計者からサプライヤー、製造業者、そして消費者やリサイクル業者に至るまで、サプライチェーン全体の関係者に大きな影響を与えます。

本記事では、DPPに記録・開示が求められる主要な情報要素について、詳細に解説します。

DPPで開示が求められる主要な情報要素

DPPで開示される情報要素は、製品の持続可能性を多角的に評価し、循環型経済を促進するために設計されています。

これらの情報は、製品グループごとに制定される委任法によって具体化されますが、ESPRの付属書Iには、以下の16の製品側面を改善する形で要件が規定されることが示されています。

DPPに記録される情報には、大きく分けて以下のカテゴリが含まれます。

1. 製品の基本情報:

製品の固有識別子(GTIN、シリアル番号、ロット番号など)

製品名、モデル、メーカー情報

製造日、製造場所

2. 材料構成と化学物質情報:

使用されている素材の種類と割合(例:プラスチック、金属、繊維など)

リサイクル材の含有率とその証明

特定の化学物質(REACH規則の高懸念物質SVHCなど)の有無、濃度、安全性データシート(SDS)

有害物質の分離方法に関する情報

3. 製造プロセスに関する情報:

製造プロセスにおけるエネルギー消費量

製品のカーボンフットプリント(CO2排出量)

使用された水資源の量

4. 耐久性・信頼性に関する情報:

製品の期待寿命、保証期間

信頼性に関する試験結果

5. 修理可能性に関する情報:

修理の可否、修理マニュアルや診断ツールへのアクセス方法

スペアパーツの入手可能性、価格、供給元

分解・組み立ての手順

6. 再利用性・更新可能性に関する情報:

部品や製品全体が再利用・更新しやすい設計であるか

モジュール設計の採用状況

7. リサイクル性・解体性に関する情報:

解体の容易さ、リサイクル可能な材料の特定 * リサイクル方法、リサイクル工程で回収可能な材料情報

8. サプライチェーン情報:

主要な部品の供給元、製造拠点

トレーサビリティに関する情報(例:児童労働や強制労働に関与していないことの証明)

9. その他:

製品の取扱説明書、安全に関する情報

各種認証情報(エコラベルなど)

売れ残り製品の廃棄量と理由(特定製品群に適用)


これらの情報要素は、製品の環境負荷をライフサイクル全体で評価し、改善するための基盤となります。

例えば、欧州バッテリー規則では、2027年2月以降、EV用・産業用バッテリーに「バッテリーパスポート」が義務化され、GHG排出量、原材料の出所、使用履歴、再生材含有率などが電子的に記録・公開されます。

DPP情報開示のメリットと課題

DPPによる情報開示は、企業にとって以下のようなメリットと課題をもたらします。

メリット

市場競争力の強化 環境意識の高い消費者や投資家からの評価向上、グリーン市場での優位性確保。
サプライチェーンリスクの低減 原材料の透明性向上による調達リスクの管理、不祥事発生時の迅速な対応。
製品開発の最適化 ライフサイクルデータに基づく製品設計の改善、資源効率の向上。
新たなビジネス機会の創出 修理・リサイクルサービス、製品サービス化モデルへの転換。

課題

情報収集・管理の負荷増大 多岐にわたる詳細な情報の収集、デジタル化、一元管理には多大な工数とシステム投資が必要。
サプライヤーとの連携 サプライチェーン全体からの情報収集には、サプライヤーの協力と情報共有体制の構築が不可欠。
データセキュリティとプライバシー 機密性の高い情報を含むため、厳格なセキュリティ対策とアクセス権限管理が必要。
データ標準化と相互運用性 国際的なデータ標準化の動向を注視し、既存システムとの連携を確保する必要がある。

まとめ

デジタルプロダクトパスポート(DPP)で開示される情報要素は、製品の持続可能性をライフサイクル全体で評価するための包括的なデータ群です。

材料構成、修理可能性、リサイクル性、カーボンフットプリントなど、多岐にわたる情報が求められ、これらは企業の製品設計、サプライチェーン管理、そして市場戦略に大きな影響を与えます。

企業は、これらの情報開示要件を深く理解し、データ収集・管理体制を整備することで、規制遵守だけでなく、競争優位性の確立と企業価値の向上へとつなげることが可能です。

今回はDPPで開示される情報要素について解説しました。次節では、DPPを支える技術的な基盤と、その仕組みについて詳しく掘り下げていきます。


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参考資料

デジタル製品パスポート(DPP)とは?事業者が知るべき全体像と義務
https://alca-lca.com/magazine/standards-regulation/dpp-overview

一般財団法人流通システム開発センター「Digital Product Passport (デジタル製品パスポート)」
https://www.gs1jp.org/standard/industry/dpp/

TUVSUD JAPAN「ESPRとは?EUの持続可能な製品エコデザイン規則を詳しく解説」
https://www.tuvsud.com/ja-jp/resource-centre/stories/jp-espr

総合地球環境学研究所「サーキュラーエコノミーとDPP(デジタル製品パスポート)」
https://www.env.go.jp/content/000185559.pdf

KPMGコンサルティング「デジタル製品パスポートによるサステナビリティのシステム化」
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/11/eu-regulation-dpp.html

トレードログ「DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?サーキュラーエコノミーを実現させる欧州発の新ルールについて解説!」
https://trade-log.io/column/3143