はじめに

前回は、GX-ETS(Green Transformation Emission Trading Scheme:排出量取引制度)における第三者検証についてご紹介しました。

今回は、その重要な第三者検証が具体的にどのようなプロセスを経て行われるのか、企業が行う報告から検証機関による確認、そして最終評価に至るまでの流れを、ステップごとに詳しく解説していきます。

ステップ1:企業による排出量報告書の作成

検証プロセスの出発点は、GX-ETSの参加企業が自社の温室効果ガス排出量を算定し、「排出量報告書」を作成することです。この報告書は、検証の対象となる最も重要なドキュメントとなります。

企業は、自社の事業活動に伴う温室効果ガス排出源(例:燃料の使用、電力消費、工業プロセスなど)を特定し、それぞれの排出量データを収集します。収集されたデータは、環境省や経済産業省が定める算定・報告・公表制度のガイドライン、または国際的な基準(例えば、GHGプロトコル)に準拠した方法論を用いて、正確に温室効果ガス排出量に換算されます。

この段階で重要なのは、データの網羅性、正確性、一貫性です。排出量報告書には、算定の前提条件、使用した排出係数、算定方法、そして算定結果が詳細に記載されます。この報告書が不正確であったり、情報が不足していたりすると、その後の検証プロセスに大きな影響を及ぼすため、企業は細心の注意を払って作成する必要があります。

ステップ2:検証機関による確認

企業が作成した排出量報告書は、次に「検証機関」と呼ばれる第三者の専門機関によって確認されます。検証機関は、企業から独立した立場で、報告された排出量データが信頼できるものであるかを客観的に評価します。

この確認プロセスは、国際的な温室効果ガス検証の基準であるISO 14064-3などのガイドラインに沿って実施されることが一般的です。ISO 14064-3は、温室効果ガスインベントリの検証および妥当性確認に関する原則と要求事項を定めており、検証機関はこれに基づいて、以下の項目を中心に確認を行います。

報告書の網羅性・正確性 排出源の特定漏れがないか、データ収集範囲は適切か、算定ミスがないかなどを確認します。
算定方法の適切性 採用された算定方法が、関連するガイドラインや基準に準拠しているか、一貫性があるかを確認します。
データの信頼性 収集された一次データ(例:燃料購入量、電力使用量)が信頼できるものであるか、証拠書類との整合性があるかなどを確認します。
内部管理体制 排出量データの収集・算定・報告に関する企業の内部管理体制が適切に機能しているか、不正や誤りを防ぐ仕組みがあるかを確認します。

検証機関は、これらの確認のために、排出量報告書や関連資料のレビュー、企業担当者へのヒアリング、必要に応じて排出源となる事業所への現地訪問(サイト訪問)などを実施します。これにより、報告されたデータが単なる数字の羅列ではなく、実態を正確に反映しているかを多角的に検証します。

なお、当社は、経済産業省のGX-ETSにおける第三者検証機関として登録されており、独立した第三者検証機関としてGX-ETSにおける排出量実績報告をサポートをしております。

参考記事:経済産業省主催「GXリーグ」登録検証機関に認定されました

ステップ3:最終評価と検証報告書の発行

検証機関による確認作業が完了すると、その結果に基づいて最終的な評価が行われます。検証機関は、収集した証拠と評価結果を総合的に判断し、排出量報告書が「合理的保証」または「限定的保証」のいずれかの水準で信頼できるものであるか、あるいは不適合な点があるかを表明します。

合理的保証 排出量報告書に重要な虚偽表示がないことについて、高い水準の確信を得られた場合に与えられます。GX-ETSの超過削減枠の創出など、より高い信頼性が求められる場合に適用されます。
限定的保証 排出量報告書に重要な虚偽表示がないと判断されるような事項が検証機関の注意を引かなかったことについて、中程度の確信を得られた場合に与えられます。

この最終評価は、「検証報告書」として企業に発行されます。検証報告書には、検証の範囲、実施した手続き、発見された事項、そして検証意見が明記されます。

この一連のプロセスを通じて、排出量データに客観的な担保が付与され、その金銭的価値が裏付けられるとともに、制度全体の透明性と公平性が確保され、企業が果たすべき説明責任が強化されるのです。

まとめ

GX-ETSにおける第三者検証は、企業が作成する排出量報告書を、検証機関がISO 14064-3などの基準に基づき客観的に確認し、最終的な評価を行うことで、その信頼性を担保する重要な仕組みです。このプロセスを理解し、適切に対応することは、GX-ETSへの円滑な参加、ひいては企業の持続可能な成長に不可欠となります。

次回は、この第三者検証プロセスにおいて、関連する他の制度(温対法・ISO・SBTなど)とGX-ETSがどのように整合性を保っているのかについて解説してまいります

当社は、経済産業省のGX-ETSにおける第三者検証機関として登録されており、独立した第三者検証機関としてGX-ETSにおける排出量実績報告をサポートいたします。

GX-ETS第三者検証サービスの詳細はこちらをご覧ください。

また、GX-ETSへの対応でお困りの際は、当社までお気軽にご連絡ください。

お問い合わせ

参考資料

経済産業省「GXリーグ公式サイト:排出量取引制度(GX-ETS)」
https://gx-league.go.jp/action/gxets/

内閣官房GX実行会議資料「GX実行に向けた基本方針」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/index.html