はじめに
前回の記事では、LCAの重要なステップである「ライフサイクルインベントリ(LCI)」について、原材料やエネルギーのデータ収集のポイントを解説しました。
一方でLCIで集めた膨大なインベントリデータだけでは、具体的な環境影響を把握が困難です。
そこで必要となるのが、今回解説する「インパクト評価(LCIA)」です。
LCIA(ライフサイクルインパクト評価)とは?
LCIA(Life Cycle Impact Assessment)は、LCIで得られたインベントリデータ(例:CO2排出量、水使用量、廃棄物量など)を、地球温暖化、酸性化、富栄養化、資源枯渇といった具体的な環境影響カテゴリーに換算し、定量的に評価するプロセスです。
簡単に言えば、LCIが「何がどれだけ出たか(入ったか)」を明らかにするのに対し、LCIAは「それが環境にどのような影響を及ぼすか」を評価する段階です。
LCIAの評価プロセス
LCIAは、主に以下のステップで構成されます。

図 ライフサイクル影響評価プロセス
1. 分類(Classification):
LCIで収集された個々の物質やエネルギー投入量を、関連する環境影響カテゴリに割り当てます。
例: 二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)などは「地球温暖化」カテゴリに、二酸化硫黄(SO2)などは「酸性化」カテゴリに分類されます。
2. 特性化(Characterization):
分類された物質を、それぞれの環境影響カテゴリにおける共通の単位に換算します。この換算には「特性化係数」が用いられます。
例: 地球温暖化のカテゴリでは、様々な温室効果ガスを「CO2換算量(CO2e)」という共通単位に換算します。これにより、各環境影響カテゴリにおける製品の総負荷量が算出され、具体的なLCIAの結果が得られます。
3. 正規化(Normalization)(任意):
算出された各環境影響カテゴリの結果を、特定の地域や期間における環境負荷の総量と比較することで、その影響の相対的な大きさを把握しやすくします。
4. 重み付け(Weighting)(任意):
複数の環境影響カテゴリに対して、社会的な重要度や優先順位に基づいて重み付けを行い、単一の総合的な環境影響指標を算出するステップです。これにより、LCAの結果をよりシンプルに把握できますが、重み付けの方法には主観が入り込む可能性があるため、慎重な解釈が必要です。
結果の解釈(Interpretation)のポイント
LCIAの結果は、単なる数値の羅列ではなく、そこから意味のある情報を引き出し、効果的に活用することが重要です。
LCIAの結果を解釈する際には、以下の点を意識しましょう。
・ホットスポットの特定:
どのライフサイクルステージ(原材料調達、製造、輸送、使用、廃棄など)が最も大きな環境負荷を生み出しているのか、また、どの原材料やプロセスが主要な排出源となっているのかを特定します。これにより、改善すべき優先順位が見えてきます。
・感度分析:
特定のデータや前提条件が結果にどれほど影響を与えるかを分析します。これにより、結果の不確実性を理解し、より確度の高い結論を導き出すことができます。
・比較分析:
類似製品や自社の過去の製品と比較することで、自社製品の環境パフォーマンスにおける強みや弱みを明確にします。ただし、比較においては同様の算定方法・条件で算定した結果と比べる必要があり、慎重に確認する必要があります。
・目的との整合性:
LCAの初期段階で設定した「ゴールとスコープ」に照らし合わせ、結果がその目的に合致しているかを確認します。

図 LCA結果の解釈と分析
LCIA結果の活用
LCIAの結果は、単に環境負荷を把握するだけでなく、企業の様々な意思決定に活用できます。
製品設計・改善:
環境負荷の大きい部分を特定し、原材料の変更、製造プロセスの効率化、リサイクル性の向上など、具体的な改善策を検討します。
サプライチェーンマネジメント:
サプライヤーからの調達における環境リスクを評価し、より環境負荷の低いサプライヤーの選定や、サプライヤーとの協働による改善を促します。
環境コミュニケーション:
エコラベルの取得、統合報告書やサステナビリティレポートでの情報開示、消費者への環境配慮型製品のアピールなど、企業の環境への取り組みを具体的に示す根拠となります。
まとめと次のステップ
LCIAは、LCAの心臓部とも言えるプロセスであり、収集したインベントリデータを具体的な環境影響へと解釈することで、企業が環境負荷を低減するための具体的なアクションを導き出すための重要な知見を提供します。
次回は、LCAの評価結果をどのように企業活動に落とし込み、具体的な製品設計やサプライチェーンマネジメント、エコラベル取得などに活用していくのか、その実践的な事例について詳しく見ていきます。LCAの知識を深め、貴社のサステナビリティ戦略に役立てていきましょう。
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